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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第52回 第五章・十
「まずは、種明かしであったな。いかにして儂が主の携帯の番号を知ったかということじゃが」
 夜。いつものように講義に行った俺を迎えたマスミさんは、ピンクのトレーナーにジーンズ姿、そしてその振る舞いはいつも通りだった。でも、昼間の様子を見ている俺には、それが強がりに思えてならない。そう思うと、いつもの彼女だって、ひょっとすると虚勢を張っているだけなんじゃないか、て思えてくる。
 前夜のようにイスに座った俺に対し、マスミさんはホワイトボードの横のイスに座って講義している。
「『オーラ』というのを知っておるな?」
「ああ、あれでしょ、人体の周囲を覆っている、目に見えない光みたいなもの」
「まあ、大体あっておる。実はこのオーラも言凝で構成されておってな、しかも様々な情報が映し出されておる。霊能者、超能力者の類(たぐい)が人のことを『見る』だけで理解できるのは、この情報を読んでおるからじゃ。つまり」
 と、マスミさんが俺の頭の上に視線を走らせた。
「主のオーラ、そこに刻まれた情報の中から数字で構成されているものだけを選び、さらにその中で携帯電話の番号特有の並び方をしているものだけを、読み出せばよい」
 試しに、と、マスミさんは「ある数字」を言った。携帯の番号だ。
「察するに、これは友人の携帯の番号であろ? ともにくっついておる名を読めば、『修平』なる人物の番号であるとわかる」
「……当たりです」
 マスミさんのすごさについては、今更、驚くようなことじゃない。こんな地味なことだと、かえって拍子抜けするぐらいだ。これより、もっとすごいものを見てるからな。
 というより、今の俺はこんな手品じみたことには全く興味がない。
「マスミさん、あの!」
 少し、イラついていたかも知れない。そんな俺の声に、マスミさんが、一瞬だけど沈痛な表情をした。でも、すぐに微笑んでみせる。
「そう急かすな。焦らし焦らされるのも、また、男と女の楽しみじゃぞ」
 そんなことを言いながら、ウィンク。
 なんというか、彼女には敵わない気がする。たったこれだけのアクションで、俺の中の焦りが腰砕けになるのがわかったのだ。でも、それは……。そんな心境の変化の速さが意味するところは……。
 俺の表情から何を読みとったのか、マスミさんが俺の後ろに立った。次の瞬間、ふわりと風が起こって、柔らかくていい匂いが俺を包み込んだ。
「マ、マスミさん!?」
 マスミさんが俺を後ろから抱いているのだ。後頭部に、彼女の吐息を感じる。体の前に回された彼女の白くて細い腕は、まるでハーネスのように、俺の動きを強ばらせている。裏返った声で俺は振り返ろうとした。
「動くな」
 優しくマスミさんが言う。
 でも、この肩やら背中やらに当たるやわらかいものって……。俺はパニックになりそうになるのを堪え、何とか言葉を口に出した。
「な、何を?」
 たった一言だけ。
 つーか、これが限界。
 そんな俺に対し、マスミさんが囁くように言った。
「主の焦りはよくわかる。自分が何者か、不安に思うているのであろ? 刀月の言葉に心惑っておるのだな?」
「……それだけじゃないんです」
「ん?」
「今日、あの娘(こ)が、嶋野さんて娘が死んでいる、て聞きましたよね? 確かにその時はショックでした。でも、今は、何とも思ってないんです。人一人が死んだというのにです! それだけじゃない。気分の切り替えが、異常なぐらい早いんです」
 俺はそこで溜息をついた。


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