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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第5回 第一章・四
 その声に応えるように、土手の上から一つの影が姿を現した。灰色のコートを着た三十ぐらいの男だ。無造作にかき上げた髪にワイルドな風貌。がっしりとした体格は、どこかアクション映画のヒーローに見えなくもない。いい男の部類に入るんだろうけど、どこか危ない感じがして、要するにカタギではないオーラをその身にまとっていた。
「小僧、お前に恨みはないが、これも仕事なんでな、おとなしくついてきてもらおうか」
 ニヤついて男が言った。
 背筋に氷を押しつけられたような急激な寒気が、体を貫く。
 なんだ、俺、なんかしたのか!? ああいうのに絡まれるようなこと、なんかしたのか?
 突然のことに思考が停止しそうになる俺に向かって男は言った。
「手荒な真似はしたくないからな。もういっぺんだけ言うぞ? おとなしくついてこい」
「やなこった! こいつは渡さないんだから!」
 俺が答えるより早く、女の子が答えた。
 男の表情が、ピキッと強ばるのがわかる。
 つーか、なんでこの娘が俺の代わりに答える?
「そーかい、そーかい。困ったなあ。そういうことなら、仕方ねえ」
 大げさに首を振って、嬉しそうに男は困惑してみせる。
「いや、あの、俺抜きで会話が進んでるのは、いったいどういうことでしょうか?」
 俺も困惑のあまり、思わず敬語になっちゃったりして。
「小僧、悪く思うなよ!」
 言うや否や、男はコートを脱ぎ捨てた。その下には黒い服そして銀色の鎧。
 女の子が目を見開いて叫んだ。
「おおぅ! コスプレ!?」
「『コスプレ』言うな! ていうか、お前が言うな!」
 男が喚く。納得。この娘の格好は俺が見てもコスプレだ。
「これはな、『呪装』なんだよ!」
 じゅそう? 意味がよくわからない。それは女の子も同じらしい。首を傾げるのが、見えた。
「こういうことさ!」
 男が胸甲(ブレストプレート)に手をやった。金属音がしたと思ったら、そこから何枚かの金属の板を取り出したのだ。それを俺たちに向かって投げつける。
「あぶないッ!」
 女の子が俺を突き飛ばす。豪快に転んだ俺だが、おかげであの金属板から守られたようだ。起きあがると、彼女が手刀で金属板を叩き落としたところだった。結構、格好いい。しかし、女の子の全身から緊張感が電撃のように発せられた。次の瞬間。
「これは!?」
「わかったようだな」
 緊張した声で叫ぶ女の子に向かって、男が勝ち誇ったようにふんぞり返る。その直後、女の子の周囲に光の網が現れ、彼女をその中に閉じこめた。
「今のは『縛鎖符(ばくさふ)』だ。標的を金縛りにして動けなくする札(フダ)だな。本当なら、その小僧だけをとっつかまえるつもりだったが、まあいい」
 そう言って男は土手からジャンプした。そして宙で一回転すると、勢いよく河川敷に着地した。コンクリートの床を砕いたかのような轟音と、スモークでも焚いたかのような砂塵が舞い上がる。
「よいしょっと」
 そんなことを言いながら男がこちらに向かって歩き出した。男の足下にはクレーターができている。
「さてと、小僧。最後通牒だ。おとなしくついてこい。依頼人からは、お前を『無傷』で連れて来るように言われてるんでな。そういう意味でも手荒なことはしたくねえんだ」
 不敵な笑みを浮かべ、男は言った。一方、俺は一言も、本当に呻き声でさえも上げられない。女の子を閉じこめている光の網だとか、爆弾みたいな着地だとか、テレビや映画ではよくあると思う。でも、それが現実に目の前で起きているのだ。トリックや加工が可能な「映像」じゃない、リアルなのだ。
 有り得ない光景、受け入れられない現実に、俺の思考は完全に停止してる。動けないでいる俺に、男がゆっくりと手を伸ばす。光の網は鎖と化し、女の子の体に巻きついて、その体の自由を完全に奪っていた。それを横目で確認すると男は口の端を軽く上げる。そしてその手が俺の襟元に触れそうになった時。
「お?」
 と、頓狂な声で男が言った。男が、いや、俺も一瞬、何が起きたかわからない。男の腕を、誰か別の腕が掴んでいるのだ。
「なんだ、お前!? 『人払い』の結界が組み上げられたここに、どうやって入った!?」
 男の声が上ずっている。何を言っているのか理解はできないが、彼にとって信じがたいことなのだろう。
 そして、それは俺にとっても信じがたいものだった。
 そこにいたのは若い女の人。栗色の長い髪はサラサラで、日の光で虹色の光沢を振りまいている。容貌は、なんとなく猫科の猛獣といった感じ。着ているのは、前を開けた白いロングコート。そしてその下に黒いシャツ、チョコレート色の格子が入った、象牙色のミニのプリーツスカート。黒いニーソックスに、ダークブラウンの編み上げブーツを履いている。年齢は多分、二十歳そこそこだろう。身長は俺と同じぐらいだから百七十二、三センチ。女の人としては高い方だろう。
 そんな女性が、男の腕を横から掴んでいるのだ。そしてそのせいで、男は俺を掴めないでいるのだ。明らかにこの男より、体格が劣っている女性だというのに。


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