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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第47回 第五章・五
 放課後、俺はバイトに出るため、「WEらんど」に向かっていた。木、金、そして土曜の午後はWEらんどでのバイトだ。WEらんどは和洋折衷レストランだ。WEらんどの「WE」は、「WEST アンド EAST」のことで、メインは洋食だが、和風アレンジにも随分と力を入れている。
 海浜地区にあり、俺の通う高校からはちょっと遠いが、バスを使うほどの距離ではない。
 俺はいつもの道を歩いていた。高校を出て北上するとほどなくして商店街に出る。商店街には入らずに、その前を東へ抜けると昔ながらのアーケード街があり、その中を通ってさらに南へ抜けると去年出来たショッピングモールがある。ショッピングモールを通り抜けると、川沿いの大きな道に出る。街を貫き、海へと抜ける葦原川だ。今いるところより五百メートルぐらい上流の方で、俺はマスミさんに出会ったのだ。
 ちなみに高校近くの商店街をそのまま北へ抜けると、小さな川があり、この川を越えると旧市街だ。その川からすぐのところに「マホラバ」がある。
 いつもはこの道に併設されている歩道を歩いてWEらんどへ向かうのだが、今日は何となく川を見たくなって、横断歩道を渡って河原へと下りてきた。多分、頭の中が整理したかったんだろう。
 一日の中でも、いろんなイベントが起きる。授業中、休み時間、そして放課後。よくよく考えれば、退屈な事なんてない。だからこそ、悩みに沈み込まなくてもすんでいるのかもしれない。
 これからバイトだ。集中しなきゃいけない。だからこそ、じっくり悩むのは夜、うちに帰ってからにして、それで、そのためにも、今、ここで少し頭の中を整理しとこう。
 そう思って土手を下ったそこには、見渡す限り人がいない。いつか来た時にはジョギングをしている人や犬の散歩をさせている人がいたのに、こんなものなのかなと思っていると、一つの影が目に入った。
 セミロングで、ちょっと痩せ気味の女の子だ。背丈は俺より頭一つ分ほど低く、目許は少しきついだろうか。
「ねえ、皇君だよね?」
 河原に設置してある簡易ベンチに腰掛けていたその女の子は、俺の姿を見留めると立ち上がった。着ているのは葦原日和見台高校一年女子のもの。だが、顔には見覚えはない。
「あたし、嶋野さとみ、ていいます」
 そう言って女の子は軽くお辞儀をする。
「あ、ああ、君が……」
 放課後になって頭の回りがましマシになった俺は、昼休みに聞いた話を思い出していた。
 そして同時に不自然さをも感じていた。
 そんな俺にお構いなしに、彼女は喋り出した。
「まこっちゃんから話、聞いてくれました? あたし、一学期からあなたのこと、見てたんですよ。今日だって、あなたのバイト先の近くで待ってたら、きっと遇えるって」
 でも、俺はその不自然さが気になって仕方がない。随分と冴えてるなと思いながら、俺は彼女の言葉を遮った。
「ちょっと待ってよ。俺、いつもはここに来たりしない。今日はたまたまなんだ。だから、君がここで待っていたって、俺と会える確率は、ほとんどない」
「だから、それって運命なんですよ」
「それに時間帯だってまちまちだ。この河原も広いから、必ずこの場所に来るとは限らない」
「だから運命……」
 言いかける彼女を制して俺は言った。
「君は、何者なんだ?」
 変な聞き方だ。でも、変な胸騒ぎがして仕方がない。
 どうにも落ち着かない。それはまるで風邪で発熱した時のような、不快さだ。俺は思わず彼女に詰め寄ってしまった。そしてその時。
「!??!??? 何だ、これ!!?」
 彼女との距離は五十センチほどだろうか。そのぐらいに近づいた時、軽い静電気のようなものが俺と彼女の間に起こったかと思うと、俺の頭の中に、奇妙な映像が展開されたのだ。
 無数の文字や記号、紋様のようなモノが乱舞している。その中心には円陣のような、魔法陣のような不思議な図形がある。そしてその図形に重なるようにして、嶋野さんが立っているのだが、彼女はその文字や記号で出来ているのだ。それだけじゃない。ところどころ記号が抜け落ちていたり、赤黒く変色しているところがあるのだ。それはまるで怪我をしているようであり、血を流しているようでもあった。
「お、お前は、何なんだ!?」
 強烈な目眩と吐き気を堪え、跳びずさった俺は叫んだ。
 間違いない、彼女は嶋野さんじゃない。いや、人間でさえない。人間なら、あんな言凝の配列をしているはずがない!
「あれ?」
 俺は、そこまで考えて気がついた。
「何だよ、『言凝の配列』って?」
 昨日、耳にしただけの「言凝」という言葉を、俺は自然に使った。しかも既知の知識であるかのように!
「これは一体……」
 半ば呆然となった時だった。


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