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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第46回 第五章・四
 ほんとに不躾だ。でも、それを突っ込んでる余裕はない。寒いのだ、とっても! 俺は早口気味に答えた。
「別に。今は欲しいとは思わない。それに忙しいからな、余裕がない」
「君は、学業とバイトだけで一日を終えてるからな。無理もないか。もう何人も『撃墜』してるってことだしな」
「人聞き悪いな」
「オブラートに包もうが、君が言い寄る女の子をことごとく振っているという事実には、変わりはないだろう? 振られる方から見れば、君は近づく者を撃ち落とすスナイパーだ。だったら自分が撃墜王だという自覚を持っておいた方がいい」
 意地悪い笑みを浮かべて、城が絡む。
「振る方も、これはこれでしんどいんだぜ?」
 口を尖らせて言うと、城が呵々大笑した。
 失礼な奴だな。
「いやあ、申し訳ない。君も一応デリカシーのある奴だったか」
「お前、俺を何だと思ってたんだ? そんな話なら、帰るぞ」
「まあ、待て待て。今一度、確認するが、君はカノジョを作る気はないんだな?」
「ああ」
 修平からは「どこかおかしい」なんて言われるけど、本当に今の俺は、恋人を作るとか、そういう気になれない。
 いや、気になる女性(ひと)が、いることはいる。でも、その女性と俺がどうにかなるなんて、想像できないし、そもそもどうにかなろうなんて思わない。
「それだけ聞けば充分だ」
 城は笑顔で頷いた。
「何だよ、一人で納得してないで、詳しく話してくれよな。気持ち悪いだろ」
 たいしたことじゃないんだがな、と言いながらも、城は話し始めた。
「音楽部(ウチ)の部員で、嶋野(しまの)さとみというのがいるんだが、君に惚れているんだとさ。ちなみに二組(うち)の隣の、一組在籍だ」
「へえ」
 少しは驚いたけど、初めてじゃないからな、こういうのは。少しは面倒だとは思ったけど、俺は平静に続きを促した。
「で?」
「嶋野さんとは、まあ、利用する電車が一緒でな、部も同じだし、ちょくちょく話をする間柄だ。そんで、今朝、通勤ラッシュの駅で電車を待っている時、いきなり君との橋渡しを頼まれたってわけさ」
「ちょっと、想像できないな、そのシチュエーション」
 なんか、あまりにも無理がありすぎないか? ていうか、そういう相談事ってのは、もっと違う状況でするもんじゃないだろうか。
 同じように思うんだろう、城も、腕を組み、難しい顔をして言った。
「そうそう。私も変だと思ったさ。だいたい、『忍ぶれど、色に出でにけり、吾が恋は』っていうだろ? 普通はそういう素振りだの、前振りだのがあるもんなんだが、そういうのがまったくない状況での告白だったからな。マジで自分の耳を疑ったさ。断言するけど、昨日まで彼女の口から、君に対する想いなんか、聞いてないぞ」
「それは、まあ、徹底してそういうのを隠してたってことかも知れないけどな。でも、それを割り引いても、電車待ちの駅で、しかも人がごった返す中で、そんな相談するかなあ」
 うんうんと、城も頷いている。
「まあ、何だ。嶋野さんには私からうまく言っとく。君はいつも通りの生活に戻ってくれい」
 そう言うと、城は早足で校舎の中に入っていった。
 俺も、いつまでも寒空の下にいるつもりはないので、そのあとを追うように校舎に入った。


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