小説&まんが投稿
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第43回 第五章・一
 マスミさんのところから帰った俺は、自分の部屋で、紺色のジャージ姿の親父と臙脂色のスーツを着たお袋、そして白いセーターにジーパンという出で立ちの俺の、三人で写った写真を見ていた。
 和穂さんの話だと、俺が四歳の頃に、家(当時は、まだ旅館だったらしい)の前で撮ったものらしい。どういうわけか、うちには写真が少ない。アルバムもあるにはあるが、写真で埋まっているわけではなく、三分の一は白紙のままだ。いつだったか、「写真の嫌いな人だったから」と和穂さんから聞いたことがある。おかげで、葬儀の際、写真を探すのに難儀したそうだ。だから、これは数少ない貴重な写真なのだ。
 写真に写っている親父は二十代後半だろうか。少し痩せた優男だ。髪は櫛を通していないのかボサボサで、眠そうな目をしている。寝起きなのかと思ったことがあるが、これが普通だったらしい。この身だしなみでジャーナリストだの旅館業だのをやっていたというのが、にわかには信じられない。絶対、客商売のスタイルじゃないし。
 一方のお袋だが、こちらは長い金髪がまばゆい美人だ。アメリカ人で、親父とは雑誌の仕事で知り合ったという。ただ、その馴れ初めがどういうものだったか、和穂さんは詳しいことは知らないという。どうも知らないふりをしているような感じだったけど、その時はそんなに興味はなかったから、それ以上は突っ込んで聞かなかった。
 しかし今は、妙に気になる。刀月の話から想像すると、親父は多分、マスミさんの弟子だったんだろう。そしてあの事故の時、何かがあった。刀月に言わせれば、俺はあの時死んでいて、親父が俺を「創った」ということになるんだけど。
「俺って、いったい何者なんだよ、親父」
 仰向けに寝転がり、写真に向かって俺は呟いた。
 写真の親父は、無論、応えてくれない。そして俺の心の中にも、親父の返事などはなく、乾いた感触があるだけだ。
 そういえば、マスミさんは刀月の話を完全に遮らなかった。むしろ、俺に聞かせようとさえしていたんじゃないだろうか。
 わからない。
 俺が何者かということも、そしてマスミさんの真意も。
 俺はただただ悩むだけだった。
 その時。
「ちょっといいか?」
 扉の向こうから真雄さんの声がした。
「いいですよ、どうぞ」
 塞ぎそうになる気分を切り替えようと起きあがり、写真を机の上に置く。そして背伸びをすると同時に、扉が開いて真雄さんが入ってきた。
「何ですか?」
「ゆうべ、言いそびれたことなんだが」
「ゆうべ?」
 何となく思い浮かぶことがあった。刀月から渡されたDVDを観ている時、真雄さんが何かを言いかけたっけ。
「ああ、何か言いかけてましたよね」
「おう。実は昨日の朝なんだがな。俺が起きた頃だから朝の八時半頃か。お前はもう学校に行ってたんだが、その時、リューカが来てな」
「リューカが?」
 なんとなくイヤな予感がする。直感というより、経験による学習という奴だ。それだけに、当たってそうな気がする。
「また何か厄介事を持ってきたんですか?」
「何だ、アーヴィング。早くもあいつに振り回されてるのか?」
 にやついて真雄さんが畳の上に座る。
「まあ、それはおいといて、だ。ある意味、厄介事みたいなものかもな」
「含みがある言い方ですね」
「まあな。……リューカがな、料理大会をしたい、てなことを言ったんだ」
「……はいぃ?」
 聞き返す俺に、真雄さんも肩をすくめてみせる。
「言うことがあんまり滅裂なんでな、リューカが帰ったあとで未来をとっつかまえて聞いてみたんだ。要は、マスミたちの引越祝いのパーティーを開こうということらしい」
「ああ、なるほど。でも、それが何で料理大会なんて表現になるんだ、あいつ?」
 マジでリューカという奴がよくわからない。異次元の生物なんじゃないだろうか。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 121