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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第4回 第一章・三
「おい、ちょっと待て」
 記憶の中で見た顔は、今、目の前にある顔と変わりない。
 そんなわけはない。今と同じ顔ということは結局、昔の顔を覚えていないということ。
「なんで、記憶の中で今と同じ顔なんだ?」
「あれ? そう? おっかしいな、ちゃんと年齢補正かけたのに」
「あ? なんだ、その年齢補正って?」
 女の子は顎に右手の人差し指をあてて、天を仰いだ。
「『九歳の頃』って、キーワードをつけたでしょ? あれで、普通なら頭の中で都合良く外見を変えてくれると思ったんだけど……、て、ええっ!?」
 考え事をしていたせいなのだろう、彼女はすらすらと喋ってくれた。おそらく喋っちゃいけないことまで。
「ほっほう、そうか。つまるところ、催眠術にかけようとしてたってことだな?」
 すっかり狼狽している女の子に、俺は詰め寄った。
「何が狙いだ? 言っとくけど、俺は金持ちなんかじゃねえぞ?」
 そんなにすごんだ訳じゃないが、女の子はびびってしまったようだ。
「そ、そんなんじゃないよう。それに、催眠術じゃなくって、『言霊』なんだけどな」
 腰が引けた姿勢で、彼女が答える。
「ことだま?」
 耳慣れない言葉を復唱してみる。
「ああ、言霊か。あれだろ、口に出す『話す』と『ものを離す』とかの『離す』が、同じ音だから同じ意味だとかいう、ダジャレみたいなもんだろ?」
「むむ? 失敬だな、キミは! 言霊をそんな風に捉えていたなんて! 今すぐ天児屋根(あめのこやねの)神(かみ)に土下座して謝れ!」
 さっきまでとうってかわって、やたら偉そうにふんぞり返る女の子。腰に手を当てて、さも憤慨したかのように鼻息を「フンフン」と荒くしている。
 分裂症か、コイツは?
 俺は頭をバリバリ掻きながら言った。
「言霊がどんなもんか、てのは俺は知らないけど、少なくとも俺に対して何かを仕掛けようとしてたのは事実だろ?」
「あう。それはね」
 途端に威勢が悪くなる。相当なお調子者と見た。
「それは?」
 俺がそう繰り返した時だった。
 突然、何かイヤな風が吹いたような気がして、思わず辺りを見回した。
 だが、誰もいない。
 あやしい奴も、イヤな気配を発した「何か」も、誰一人として。
 そう、人っ子一人いないのだ。さっきまではいたはずの親子連れや、キャッチボールをしていた小学生たちまで、誰一人として!
 今、ここにいるのは俺と「自称」俺の幼馴染みの女の子だけだ。
「なんでだ? なんで誰もいないんだ?」
 不穏な空気が流れている。匂いが変わるとか温度があるわけではないけど、確かに異質な空気がまとわりついてくる。そして、隣にいる女の子が険しい表情をしていた。
「君は下がって!」
 硬い声で女の子が言った。まるで鋼の刃を思わせるような、硬く鋭い声は、しかしかすかな震えを宿していた。
「出てきなさい!」
 女の子が叫ぶ。


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