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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第25回 第三章・二
「君の表情とか見てると、わかるのよ。ああ、今、マスミさんやリューカと同類に思ってるな、て」
 唖然となった俺に、そう言って未来さんはいたずらっぽく笑い、種明かしをしてくれた。一方の俺は恥ずかしさで、耳が燃え出しそうだ。土曜日といい今といい、思ったことが、そんなにわかりやすく顔に出るんだろうか、俺って?
「いや、あの! ……すんません」
「いいっていいって。ある意味、私にとっては誉め言葉なんだから。ところで君、高校生なのに、本当に難しい言葉知ってるのね。私が君ぐらいの頃って、そんな言葉、使わなかったし、そもそも知らなかったわよ」
 笑顔で言ってくれるのが、救いだ。この笑顔に「裏」がないと信じたい。
「まあ、いろいろと考えてますから」
「いろいろと考えてる?」
「ええ、まあ」
 未来さんは「ふうん」とだけ言って、それ以上は聞いてこなかった。
 必要以上に相手のプライベートには立ち入らない。これが彼女のスタンスなんだろう。それは、マスミさんも同じだった。
 だから俺は言う気になったのかも知れない。
「俺、夢があるんです。将来は童話作家になるっていう」
「へえ」
 と、未来さんは目を丸くした。
「俺、小さい頃の記憶がないんです。あの日、家で意識を取り戻して、それで、アルバムとか探したんです。でも、まとまったものが見つからなかった。その時、俺、別の本を手にしたんです。それが童話だった」
 その時のことが、俺の胸に鮮やかに蘇る。
「多分、小さい頃に買ってもらって、それで多分、読んでもらって、自分でも読んだはずなんです。だから俺はその童話を読んだ。貪るように、片っ端から。そうしたら何か思い出すんじゃないかって思って。でも、思い出せなかった」
 未来さんは、優しげな瞳で俺を見ている。
「そのうち、俺は記憶探しよりも、童話を読むことの方に夢中になった。お話の中の登場人物や出来事、とても現実離れして、でもドキドキワクワクするような物語に、心躍らせたんです。俺が、早い段階で過去に対するこだわりを捨てることが出来たのは、多分、童話のおかげなんです。だから俺は、俺が救われたように、多くの子どもたちの助けになれれば、夢を紡ぎ勇気を与えられれば、そう思ってるんです」
 うんうんと笑顔で未来さんが頷く。
「それで、少しでも語彙(ごい)を増やしたくて、暇があれば本を読んだり、辞書を読んだりしてるんです」
 もう一度「へえ」と言ってから、未来さんは天を仰いだ。
「みんな、夢に向かって頑張ってるのねえ」
 それは感嘆とも嘆息ともとれる呟きだった。
 そんな風に見ている俺に気づいたのか、未来さんは慌てたように首を振った。
「私にも夢はあるのよ? 一流のシェフになって自分のお店を持つっていう」
「そういえば、リューカに聞いたんですけど、昔どこかで料理の修業をしていたって、本当ですか?」
「あら? リューカがそんなことを?」
 ほんの少しだけ困ったような表情をする未来さんだったが、それは真剣に困惑しているのとは少し違うようだ。強いて言うなら、サプライズを先に言われてしまったような、そんな感じだ。


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