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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第24回 第三章・一
 マスミさんから弟子入りの勧誘をされた翌日。すなわち火曜日。幻心の襲撃は(約束だから)なく、これといったイベントもなく、平凡に一日が過ぎて放課後となった。
 火、水曜日のバイトは旧市街のデパート「マホラバ」の、食品コーナーのレジ打ちや陳列棚の整理だ。
 マホラバへ向かう途中、俺はマスミさんたちに初めて会った土手を通りかかった。そこで俺は一人の女性に出会った。確か、マスミさんのところでメイドをしている、未来さんとかいう人だ。今日はメイド服じゃなく、赤いダウンジャケットに、白いジーパンという出で立ちだ。
 まあ、そうだろうな。街の中をああいう格好でうろついていたら目立ってしょうがないし、そもそも俺ならその正気を疑う。
 声をかける前に、彼女の方が気づいて声をかけてきた。
「アーヴィング君じゃない。今、帰りなの?」
 そういう未来さんは買い物カゴを提げている。晩ご飯の買い出しといったところだろう。
 行く先が同じなのか、俺たちは自然に並んで歩き出した。彼女は俺より十五センチぐらい低い。小柄な女性だが、どこかパワーに溢れている感じがする。やっぱりメイドさんは体力勝負なんだろう。
「今から、バイトなんですよ、マホラバで」
「え? ホント!?」
 いきなり彼女の瞳が輝いた。
「私ねえ、これから、マホラバに買い物に行こうと思ってたの!」
「え? マホラバへ、ですか?」
 俺は思わず聞き返した。俺の通う高校からなら、十五分ぐらいで歩いて行ける距離だが、俺の家の辺りからだと歩くのはかなり厳しい。
「まさか、家から歩いてきたんですか?」
 俺の問いに、マスミさんは明るく笑って首を横に振った。
「まっさかぁ! この近くでスイーツのお店を見かけたから、ちょっとバスを下りて様子見をしてきたのよ」
「スイーツのお店? ああ、『エスペランサ』ですか」
「そうそう。結構いい感じのお店よねえ」
「そうですね。あそこは評判いいですよ。何回かテレビでも紹介されてますし」
 すると、急にいたずらっぽい笑みを浮かべて未来さんが言った。
「マスミ様はね、甘いものに目がないのよ。今はロイヤルカスタードプリンに、はまっているみたい」
「それが何か?」
 彼女は小さく笑う。
「だからね、マスミ様へのおみやげはスイーツに限ると思うの」
「仰る意味がわかりませんが?」
 なんか、何を言いたいのか、おぼろげにわかるような気もするけど、ここはとぼけておく方がいいと、俺の直感が告げている。
「またまたあ! お姉(ねい)さんにはわかってるんだから!」
 俺の肩を小突きながら、意味不明のことをいう未来さん。
「何のことか、本当にわかりませんてば!」
 俺があくまでとぼけていると、未来さんは何もかも分かっているかのように小さく笑って言った。
「まあ、いいわ。そういうことにしといてあげる」
「そういうことも何も」
「土曜日、引っ越しのご挨拶に伺った時のね、マスミ様を見る君の表情、見逃さなかったんだから」
 俺は、そういう表情(カオ)をしていたんだろうか? 自覚はないんだが。でも、今は否定できない。多分、俺は……。
「ところで! ねえ、お買い得品とか、お得なサービスタイムとかあったら、教えてくれないかな!?」
 世に、「朱に交われば赤くなる」という言葉がある。思えばマスミさんもリューカも、随分と直截的な表現を使う人だった。
 普通は、もっと親しくなったり、ご近所づきあいが深まってから、聞いたりしないだろうか、こういうことって?
「『同気、相求む』ってやつかな?」
「お? 君、難しい言葉、知ってるね?」
 思わず呟いてしまってから、俺は口を塞いたけど遅かった。でも、まあ、今の言葉だけじゃあ、何のことを言ったかなんてわかるわけ……。
「マスミ様も、直球勝負の人だからね。いつの間にか私もリューカも影響されちゃうのよね」
 未来さんは、恐ろしく勘のいい人だった。


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