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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第22回 第二章・十二
「……なんていうか、こういう大人にはなりたくない、ていう見本市みたいだな、アンタ」
「あン? どういう意味だ、そりゃあ?」
「問答無用で襲いかかって来て、訳のわかんない状況に人を追い込んで、立場が悪くなると掌を返したような態度をとる。挙げ句にバクチ同然の判断力。どこにも尊敬できる要素なんか、ねえじゃん」
 指を折りながら俺は列挙する。すると幻心は、深い溜息をついた。その表情は苦笑いといおうか寂しげな笑みといおうか。
「いいか、小僧。大人になるっていうのはな、そういうことなんだよ」
 遠い目をし、手を腰に当ててポーズをとりながら、幻心は、どこかの映画のセリフみたいなことを言ってのける。重ね重ね断っておくが、今、ヤツはパンツ一丁である。
 その時、綺麗な笑い声が響いた。マスミさんだ。
「主ら、気が合うではないか」
 そう言って、笑う。
 心外だ。
 心底、そう思う。
 それは幻心も同じなのか、俺を見て苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「ま、まあ、この小僧と気が合うかどうかは別にして、俺はこの件から手を引きます」
 きっぱりと言い切った幻心に微笑み返すと、マスミさんはスカートのポケットからペンダントを取り出した。ヘッドは薄い青色に輝く宝石らしいもの。
「これを、然るべきところで換金すれば、かなりの額になるはずじゃ。主の手付け金とやらは如何ほどか?」
 幻心が金額を口にする。ちょっとびっくりした。日常生活の中では、まず耳にしない金額だ。そういう金額が実際にやりとりされているということが、イマイチ信じられない。つくづく庶民なんだな、俺って。
「そうか、ならば、これも加えた方がいいの」
 幻心から金額を聞いたマスミさんは、ポケットからもう一つ宝石を出した。目の覚めるような透き通った赤色の石だ。今度はブローチっぽい。どうなってるんだろう、あのポケットの中、ていうか、ああいう大事なものを無造作にポケットに突っ込んでいるマスミさんの感性って……。
 幻心は、しかし身振り手振りで拒絶した。
「いえ。お気持ちだけで結構です。自分の不始末ぐらい自分でどうにかしますから」
 この場合、「不始末」というのは適当ではない気もするけど、まあ、似たようなものか。俺を拉致するという依頼を蹴るわけだから。しかし、結構、男気があるな、こいつ。パンツ一丁だけど。
 マスミさんは「ほう」と言って口許に笑みを浮かべる。でもどこか揶揄するような感じがするのは、気のせいか?
「その点は、お気遣いなく。その代わりといっては、何ですが」
 突然、低姿勢になる幻心。さっきまでとは全然違う雰囲気を漂わせている。そして、
「俺を、弟子にして下さい!」
 突然、腰を九十度以上に折ってマスミさんに弟子入れを申し入れた。
 マスミさんは、何となく困ったような表情だ。苦笑いに新鮮な印象を受ける。
「悪いが、今は弟子は、とらぬのでな。もし言霊に興味があるのなら、他の者を紹介するがどうじゃ?」
「いいえ! マスミ様だからいいのです! じゃなくて、マスミ様でなければならぬのです! 俺は、いや自分は、修業時代から今に至るまで、本当の言霊使いというものに会ったことがありませんでした。あなた様は本物です! 師事するなら本物にと、ずうっと心に定めておりました! どうか、どうかなにとぞ、俺を弟子に!!」
 遂に、土下座までして幻心は拝み込んでいる。それほど、マスミさんというのはすごい存在なんだな。
「ふう」と、マスミさんは溜息をついた。そして一言。
「『主(ぬし)を弟子にするつもりはない。おとなしくひいてくれ』」


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