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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第21回 第二章・十一
 その時の様子は実はよくわからない。気がついたら、マスミさんは幻心の背後、二メートルぐらいのところに立っていて、腕からは光はなくなっていた。そして幻心は、というと。
「ぶえええっくしょい!」
 縞々のトランクス一丁でくしゃみをしていた。彼が着ていた鎧だの服だのは、バラバラになって足下に転がっている。
「お、お前、ただの『言霊使い』じゃねえな!? 何者(なにもん)だ!?」
 震えながら幻心が喚いた。マスミさんは振り返り、思わずゾクッとなるほどの艶っぽい笑みを浮かべて言った。
「マスミ・ミロワール」
「マッ……! マスミ・ミロワール……」
 息を呑んで幻心が言葉を無くした。声が完全に裏返っている。
「あ、あの、世界中を旅する究極の言霊使いの!」
 どうやら、マスミさんは、業界ではかなりの有名人らしい。幻心は俺とマスミさんを交互に見ている。
「世界中のVIPが頼りにしているという、あの!」
 今度は口をパクパクさせながら、それでも俺とマスミさんを交互に見ている。何が言いたいんだ?
「な、なな、なんで、あなたほどのお方が、こんなチンケなガキを、お護りになるのでしょうか?」
 チンケは余計だ。でも、俺もそれは気になっていた。タイミングを外したので聞きそびれていたけど、そもそも、何でリューカが幼馴染みのフリをして俺に近づいてきたんだろう? マスミさんの指示に間違いないと思うけど、なんでそんなことをしたんだろう?
 俺と幻心は、マスミさんの言葉を待った。
 だが、マスミさんの口から発せられたのは俺たちが望んだ答ではなかった。
「幻心。お主、根っからの悪党ではないな? 先刻、外へ飛び出そうとしたアーヴィングを止めようとした。あれは、異次元へ飛び出そうとしたアーヴィングを気づかってのことであろ?」
 柔らかな笑みで彼女は言った。
「と、とんでもない! 依頼人との約束は、このガキを無傷で拉致ること。わけわかんねえ異次元に飛び出して怪我でもされたら、俺の信用に関わると思っただけで」
 さっきまでとはうってかわって、えらく恐縮したように頭を掻く幻心。パンツ一丁じゃなかったら、それなりにいい光景なんだろうけど。
「照れることはない。最近は功名心ばかりに走る術者が増えておっての。もちろん、功名心を追うことは悪いことではない。じゃが、それのみに囚われておっては、重要なものを見落とすことになる」
 幻心は、かなり面映ゆい思いをしているらしい。しきりに頭を掻いて、はにかんでいる。
「かように、己が使命に忠実なお主には、ちと酷な質問かもしれんが。まだ、アーヴィングを狙うか? それとも、手を引くか? さて、どうする?」
 いたずらっぽく笑い、マスミさんは幻心を見た。
 急に我に返ったか、幻心は息を呑んで俺を見た。そして腕を組む。
「うーん。マスミ様とは事を構えたくないし、クライアントからもらった半金は、いくらか使っちまったし。どーすっかなあ?」
「葛藤は、口に出して言わない方がいいと思うぞ?」
 思わず俺も突っ込んでしまうぐらい、間抜けな光景だ。冷静に考えれば、いい歳の男がパンツ一丁で、体育館で、高校生と美女に挟まれて、何かについて悩んでいるという図は、奇矯以外の何物でもない。
「うるっせえ! お前にこの究極の選択が理解できるかってーの!」
 俺を睨んでそう言ってから、一つ大きなクシャミをする。風邪ひいたな、間違いなく。
「よし、決めた! 手を引きます!」
 えらくあっさり決めたな、おい。時間にして一分ぐらいじゃなかったか? 随分インスタントなんだな、究極の選択って。
「えらく短いな、究極の選択ってのは?」
 俺は嫌味たっぷりに言ってやったけど、ヤツには堪えてないらしい。余裕の笑みで答えてきた。
「究極の選択だからこそ、だ! あまり悩んでもどうしようもねえ。こういう時は直感でバーンといくのが、正解なんだよ!」


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