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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第2回 第一章・一
 ぶっちゃけて言うと、俺には十歳より前の記憶がない。
 もちろん、幼稚園の頃のことを事細かに、それこそ何月何日に誰それと遊ぶ約束をしたのにすっぽかされた、なんていうのを覚えているのはそれはそれで立派だが、そういうのは記憶力云々よりも、もはや人間性の問題と言うべきであって、それと今俺の目の前で起こっていることとは、何ら関係はない。さらに言うと、小学生の頃のことやその前のことなど、おぼろげに覚えているのが普通であって、例えば主だったイベントや親しい人間関係など、インパクトの強いもの以外は忘却の彼方というのが、ごくごく一般の、普通の、まっとうな常識人であろう。
 しかし、俺にはそれすらない。
 つまるところ、俺は一種の記憶喪失なのだ。
 なんでも六年前、つまり俺が十歳の頃、両親とともに、廃工場となっていた花火工場の爆発事故に、巻き込まれたのだそうだ。その時両親は死亡、俺も大火傷を負って半死半生だったらしい。
 幸い手当が早かったおかげで俺は一命を取り留めたものの、その代償であるかのように以前の記憶を無くしてしまったというのだ。
 ついでに言うと、入院していた頃の記憶も俺にはない。気がついたら家で寝ていたのだ。というか、物心ついたら家だったと言えばいいのか。人の話では、入院中の俺は日本語さえ忘れていたらしい。逆行性健忘どころか、全生活史健忘だったそうで、医者もさじを投げたそうだ。
 そんな時、俺の親戚だという人……父の妹だという人が、退院させて自宅に住まわせればいいのではないかと医者を説得し、火傷が治癒した頃、退院させたのだという。
 そしてそこから「今の俺」の記憶がスタートしている。
 残念ながら、その時の俺は「皇(すめらぎ)アーヴィング」という自分の名前や簡単なプロフィール、そして日本語や、ある程度の教養・学科的知識を覚えているぐらいで、通っていた学校や友人のこと、さらにそれより以前の事は、すっかり頭からなくなってしまっていたのだ。
 しかし、当の俺はそれほど悲壮感に苛まれているわけではない。確かに一時期は悩んだこともあったが、いつまでも過去にこだわったところで、どうにかなるわけでもない。だったら、まず前を向いて生きていこう、と、こんな風に思ったのだ。いつの日か、記憶を取り戻すかも知れないし、そうじゃないかも知れない。だが、どちらにしろ、「俺」という人間がここにいるのは間違いのない事実なのだ。
 それはもう体の奥底からの「声ならざる声」とか、直感に近い感覚だったかもしれない。
 随分と前置きが長くなってしまったが、何が言いたいかというと。
「だからさ、あたしは君の幼馴染みなわけ。ユー、アンダスタン?」
 などと半端な英語で俺の顔をのぞき込んでいる少女から、俺の幼馴染みだと言われても、そんな理由から、自信を持って否定も、そして肯定もできないのだ。


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