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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第18回 第二章・八
 放課後。
 帰宅部の俺は、帰る準備をしていた。
 月曜日は、バイトは入れていない。さすがに一週間びっちりというのはきつい。学業との両立とか、そんな話じゃなく、体力的にも精神的にも堪(こた)えるのだ。
 そんなわけで日曜日と月曜日にはバイトは入れないようにしている。もっとも、バイト先から緊急でヘルプを頼まれることもある。そんな時は、事情が許す限り、出るようにしている。困った時はお互い様だし、やっぱり頼られるのは嬉しいものだ。間違っても「厄介事を押しつけられている」などと思ってはいけないのだ。……いや、これホント。そんな風に思っちゃったり、気がついたりしちゃったりすると、仕事なんかやってられなくなる。
 俺はいつものように鞄を肩にかけ、教室から出た。
「あれ?」
 教室を出た瞬間、俺は妙な違和感に囚われた。目眩にも似た、空間認識の失調感。わずかながら視野が傾(かし)ぐような、視覚の変調。耳を塞がれたような、音の断絶。世界が圧縮されたような、閉塞感。
 だが、そんな感覚も一瞬の後には、平静に戻っていた。そして見える景色は廊下。窓の外は裏庭。左右を見渡してもいつもとかわらない。
 それでも違和感は消えない。否。さっきとは別種の違和感が今の俺にまとわりついていた。その正体に気づくのに、ほんの数秒首を傾げるだけですんだのは、学校という空間が持つ特殊性が、俺の感性に染みついていたからだろう。
「なんで、誰もいなくて静かなんだ?」
 俺は帰宅部。多少の用事があって遅く帰ることはあるが、基本的に部活に所属している連中よりはずっと早く帰る。そして、俺が帰る頃は、誰かしら教室に残っているものだし、廊下にも人影はある。何より、部活を始めた生徒たちの声がするはずなのだ。
 俺は慌てて、今出たばかりの教室を見た。
 誰もいない。
 そんなはずはない。さっきまで男子と女子が数人いたはずなのだ。
「どうなってんだ、これ?」
 狐につままれたよう、なんてレベルじゃない。まるで世界に俺一人だけが生き残っているかのような錯覚さえおきる。
 俺はいたたまれなくなった。そして誰でもいいから捜そうと思った時だ。
「また、会ったな、小僧。いや、皇アーヴィング!」
「この声、この間の」
 そう思って振り返ると、廊下の端に銀色の鎧を纏い、黒いマントを羽織ったあの男が立っていた。
「蔵間幻心」
 俺がそう呟くと、男は口の端を歪めるように笑って答えた。
「ほう。俺のことを調べたか。ま、俺も有名だからなあ」
 なんか、まんざらでもなさそうだ。
「まあ、それはいいとしてだ。今日こそはお前を連れ帰るぜ」
 そう言って、幻心はお札を構える。気のせいか、奴の手から青い光が煙のように立ち上っているように見える。その光を受けて金属質の札が、ギラギラと輝いている。
 絶体絶命だ。この間の、人を縛る札だろうか。あれがどんなものかわからないけど、拉致られて、拘束されて、なんてのは、ぞっとしない。どんなことをされるかわかったものではないし、そもそも何で誘拐されなきゃならないのか、わからない。
 ……誘拐!
 その言葉に自分で思い至った時、背筋が寒くなった。
 そうだ、これは「誘拐」だ。あまりにも異常なシチュエーションが多かったから麻痺していたけど、これって結局「誘拐」なんじゃないか!


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