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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第16回 第二章・六
 でかい。重箱とまではいかないが、キングサイズには間違いない。
 俺はそれを受け取りながら、半ば、あっけにとられていた。
 政財界に顔が利く世界的占い師。そんなとんでもない人物が、こんな街に越して来るというのがイマイチわからないのだ。
「やっぱり、あれか? 相談者を叱り飛ばしたり、説教したりすんのか、マスミさんは?」
 だから、こんなどうでもいい質問をしてしまう。俺の言葉に、自分の分と思しき、やっぱりでかい弁当箱を広げながら、リューカが答えた。
「何、それ? 日本じゃ占い師ってそういうことするの?」
 本気でわからないように、首を傾げる。
「叱り飛ばすとか、説教とか、あんまりそういうのは見たことないなあ。アドバイスはするけど、それを実行するのはあくまで相談者であって、こちら側はよりよい選択肢を提示するだけだ、て、マスミは言ってたよ、もちろん、どうにも道理をわきまえない輩は諭すって言ってたけどね」
 まあ、そうだろうなあ。テレビに出てくる有名占い師も、道理を知らない人間相手にキレてる感じだもんな。
 それはそうと、腹が減ってきた。俺は弁当箱を開ける。せっかくの厚意に甘えないのは、かえって失礼だ。
「お。これは」
 開けた瞬間にわかった。彩りといい配置といい、かなりセンスがいい。特に煮物など、汁気を含んでいそうなものはラップで個別にくるんであったりして、水分が他のおかずに浸食しないような配慮がされている。
「いただきます」
 そう言って、俺は里芋の煮っ転がしを頬張った。
「これは……!」
 甘辛く作っただし汁で煮込んである。これは既製品を買ったわけじゃなく、自分で煮込んだ味だ。冷めてもおいしいように。かなり濃い味付けになっているけど、それがご飯にピッタリあう。
 続いて俺は、クリームコロッケを食べてみた。味の感じが市販のものと違う。いや、ベシャメルソースこそ市販のものを使っているようだけど、そこから先が違う。この心地よい歯ごたえ、そして不思議な食感は。
「明太子、か!」
 驚いた。おそらく辛子につけていない物をほぐして使ってあるのだろうけど、どういう魔法か、明太子特有の味というものがない。本当にどんな調理方法なんだろう。未来さんというのは、確かに料理の達人のようだ。
「ね、こっちも食べてみて」
 舌鼓を打つ俺の前に、リューカの方の弁当箱が差し出される。
 こっちも未来さんの手作りか。
「……あれ?」
 でも、こちらは、見栄えが良くない。彩りが、なんていうか、焦がした料理の模造品(フェイク)みたいだ。それに、妙な匂いも漂ってくる。この匂いは……。複雑すぎてよくわからない。
「いただきます」
 未来さんが作ったものであることは間違いないのだから、俺は、鮭の切り身(らしいもの)を口に放り込んだ。
「ね、おいし?」
「……」
「おいしいでしょ?」
 何かを期待するかのような笑顔のリューカを見て、俺は言った。
「辛い」
「え?」
「辛い。とにかく辛い。塩の塊だ、これは」
 吐き出すのは失礼だから、何とか飲み下す。さっきの、豊潤にして彩り豊かなおかずとは大違いだ。
「うー。じゃあ、これは?」
 呻くとリューカは、塩でできたような鮭の切り身の隣にあるハンバーグ(らしき黒い物体)を指さす。
 俺は、いやな予感がしながらもそれを箸でつまむ。ううっ、気のせいか、箸が震えてるじゃん、俺。そして勇気を持って口に投げ入れる。
「どう? おいしいでしょ?」
「……」
 また、すぐには答えられなかった。これは返答に窮してのことじゃない。一瞬、意識が飛ぶからなのだ。
「おいしいよね?」
 笑顔を輝かせ、リューカが俺を見る。
 ああ、そうか。これを製造したのは、こいつか。
 突然、冷たい風が吹いた。この時期、やっぱり屋上は寒いなあ。
 などと思っていても来てしまったものは仕方がない。同じように、口に放り込んだものも、吐き出すのは汚いし失礼だから、したくない。
 俺は、人生においてストックされている「勇気」ポイントの、おそらくほとんどを使い切って、それを飲み込む。
「おいしい?」
 まだ、そんなことを抜かすか、と思いながら俺は答えた。
「炭だ、炭! どこからどう吟味しても炭以外の何物でもねえ。ライター持ってないのが、残念だ、絶対コイツ燃えるのに!」
 リューカが頬を膨らませる。さすがに気に障ったか。
「『おいしい』よね!?」
 リューカが俺を見て、しっかりとした口調で言った。
 あれ? なんか、頭の中が回るような感じがするぞ?
「お、おい、し……」
 あれ、何言ってんだ、俺?
「『おいしい』って言ってよ」
 リューカの声が子守歌のように心地いい。
「ねえ。『お・い・し・い』って、言って」
 頭がくらあっとした。リューカが顔を近づけ、囁くように言っている。その表情は蠱惑的でさえあった。そして、俺は。


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