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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第14回 第二章・四
 俺は二人を見送ると、教室を出た。……ところで思わず息が止まりそうになった。そして我が目を、次に正気を疑った。
 俺の視界に入ったのは、廊下をきょろきょろしながら歩いている女の子。着ているのは葦原日和見台高(うち)の制服ではない。ちなみにうちの冬服は、男子女子ともにジャケットは象牙色でシャツは白。ネクタイは一年が赤、二年が緑、三年が青。男子のズボンはブラウン、女子のプリーツスカートはベージュ色をベースに黒やオレンジ色でチェックが入っている。
 一方、廊下にいるアヤシイ少女が着ているのは、紺色のブレザー、白いシャツ、水色のプリーツスカートで裾に白いラインが一本、ウサギのマスコットが一匹、縫いつけてある。
 だから、うちの生徒ではない。生徒ではないが。まるで市内の女子校の制服を改造したような、どこぞのコスプレのような、というか妙に露出が高くスカート丈が短く、それに比例して羞恥心が摩滅しているような格好の女の子には、見覚えが有りまくる。
 ていうか、エンカウント率がムチャクチャ高い。バグなんじゃないか?
 まあ、そんなことはどうでもよろしい。俺がするべきことは……。
「購買部へ下りる階段は、一つじゃないもんな」
 俺はリューカに背を向け、歩き出した。だというのに!
「ほぉうっ! アーヴィング見っけ!」
「いやあ、見つかっちゃったよう、てへっ」
 などと明るく応えることも出来ず、かといって知らんぷりを決め込んで逃げ出すこともできず、俺は振り返った。
「何やってんだよ、お前は!? とにかく他の人に見つかると面倒だ。早く人のいないところへ!」
 小声で急かすと、リューカはフフン、と得意げに笑ってみせる。
「それは心配ないのだよ、ワトスンくん。今の私は、誰の目にも、とまらないのだ」
 いや、しっかり捉えられているだろ、俺の目に。あと、俺はワトスンじゃないぞ。
 俺の無言の問いに答えるように、リューカは上着の内ポケットから一通の封筒を取り出した。
「この中にね、穏形(おんぎょう)の符が入っているの。わかりやすく言うと、姿を隠す『まじない』ね。あ、でも透明人間になるわけじゃなくて、ちゃんと見えてるの。見えてるけど、意識されないわけ。あたしの方から話しかけない限り、相手はあたしのことを意識できなくなるの。見えているのに、あたしがいる、ということにさえ気づけない。その意味じゃあ、透明人間て、いえるかもね」
 なるほど。こんなに目立つ格好なのに、周りが騒いだ気配がなかったのは、そういうことだったのか。
 でも、ちょっと待て。それってなんかおかしくないか? 確かにリューカの方から声をかけてきたが、それより前に俺の方が気づいてたぞ?
「でも俺、お前が声をかけてくるよりも早く、気がついていたけど?」
「え?」
 一瞬、リューカが首を傾げ、考える素振りをする。
「だから、お前の姿が見えたんで、俺は背を向けて歩き出したんだが」
「それって、もしかして!」
 何かに気づいたように、リューカが俺を見た。
 そう、その札は、少なくとも俺には効いていないのだ。
「あたしにシカトこいたんだ! ひどいよ、アーヴィング!」
 ……そこか。今、一番気になる点はそこなのか、お前にとって。
「あ、いや、だから」
「ひどいよぅ、お隣さんのことを無視するなんて。そんなところから人間関係の断絶、孤独な独居死、身近な虐待に気づけず奪われる幼い命、そしてやがては人が人を信用しなくなる、魔界のような世界が現れるんだよ?」
 言っていることは少々キテレツだけど、リューカは半泣きだ。何かバツが悪くなった俺は、頭を掻いて言った。
「あー、そのー、無視したのは謝るからさ。ただ、そういうかっこで校内うろつかれるとな、目立つんだよ。それで、そういうのと一緒にいると、俺も目立つわけで、そういうのは、できれば避けたい」
 納得したのかどうか、リューカは「ふうん」と言って頷いた。
「じゃあさ、人目につかないとこへ行こ?」
「それは俺も望むところだが、なんか微妙な表現だな、それ」
 泣いたカラスが何とやら。人が聞いたら誤解しそうなことを笑顔で言うリューカを促し、俺はとりあえず屋上へと向かった。


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