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作品名:言凝、幸わう星 作者:ジン 竜珠

第10回 第一章・九
 まず目に入ったのは、二十歳ぐらいの、ショートカットの女性だった。優しそうな風貌の美人さんだけど、それよりも目を引いたのは、彼女の格好だ。エプロンドレスというのだろうか。ちょっとかわった格好だ。
「ああ、どうも。それはご丁寧に」
 そう言いかけた時だ。彼女の後ろに立っている二つの影に気がついた。そしてそれは……。
「あ、ああ! あなたたちは!」
「どうしたの、眞ちゃん!?」
「どうした、アーヴィング!?」
 俺が上げた奇声に、和穂さんと真雄さんが飛び出してくる。でも、俺はそんな二人に「何でもないから」なんて返事をする余裕なんかなかった。だって。
「おお、昼間の少年ではないか。帰っておったのか」
「やほ。昼間は、どもども」
 マスミさんに、リューカが立っていたのだ。
「お、お前!」
 と、俺の後ろで息を呑む気配があったかと思うと、真雄さんが一言呻いて絶句した。振り返ると、マスミさんたちを見て目を見開いている真雄さんに、手で口を覆っている和穂さんがいる。
 二人とも、もしかしてこの人たちを知っているのか?
「おお、真雄ではないか。久しいの」
「てめえ、ここに帰ってきてたのか」
「まあな。少々、やらねばならぬことができた故」
 マスミさんの言葉に、真雄さんの表情が真剣なものになる。どうやら二人が旧知の仲というのは、確実なようだ。
「フン。この仏敵が」
 一言、悪態をつく真雄さんだけど、不思議と憎しみや嫌悪感は感じない。親しいからこそ口にできる、軽口に思える。
 一方、和穂さんはどうなんだろう。
「和穂さん、知り合い?」
 俺の言葉に、我に返ったように和穂さんが口を開く。
「え? ええ、知り合いとか、そういうのとか、そうじゃないのとか」
 なんだろう、混乱してるみたいだ。それを見た真雄さんが、頭を掻きながら溜息をついた。
「まあ、確かに世を超越する美人だからなあ、マスミは。和穂が、どこかのモデルが来たと思っても無理はねえやな。そうだろ、和穂?」
「え? え、ええ、そうね。芸能人かと思っちゃった」
 なんか歯切れが悪いけど、それだけ和穂さんは驚いているということなんだろう。
「しょうがねえな」と言ってから、真雄さんはマスミさんを見た。
「隣に越してきた、てことは、この街に住むってことか」
「異なことを言う。しばらく見ぬうちに、頭の回転がおかしくなったか? 頭とは使うためにあるのじゃぞ?」
「何ぃ?」
 マスミさんの言葉に頓狂な声を上げると、しばし考える素振りを見せてから真雄さんは言った。
「アーヴィング、今日から俺もここに住むぞ! 部屋はいくらでも空いてたよな?」
「……はいぃ?」
 唐突だ。全く話が見えない。そんな俺を置き去りにして真雄さんはマスミさんに向き直った。
「お前みたいな仏敵が近くにいたんじゃ、アーヴィングの情操教育や成長や学業にいい影響があるとは思えねえ。だから、俺がここに住んでお前の悪しき影響からアーヴィングを守ってやるんだよ」
「それは面白い。ならば儂も、ここに住もう。見たところ、空き部屋はまだあるようだが」
「なに言ってやがんだ! お前は隣に越してきたんだろうが!」
「だが、ここに住んで悪いというものでもあるまい?」
「いいわけねえだろうが! おい、アーヴィング、お前からも何とか言え!」
「え? 俺が!?」
 いきなり話題をふられても、即答できるわけない。考えたこともないような内容だし。
「お主(ぬし)が、ここの主(あるじ)だ。決定権は主(ぬし)にある」
 マスミさんが、俺を見る。
 そして真雄さんは真雄さんで、真剣な眼差しで俺を見る。
 そんな重大事なんだろうか?
 ……重大事なんだろうなあ。
 それに、こんな感情むき出しで取り乱している真雄さんて、初めて見る。本当に、大切なことなんだろう。
 そのあと、俺なりにいろいろ考えたり、和穂さんも交えて話したりした結果、真雄さんはここに住むことに、マスミさんのこちらへの下宿は見合わせることになった。
 なんか、にぎやかな毎日が始まりそうだ。


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