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作品名:冒険者は踊る 作者:十羽ふみ

第5回 5
 「ニャッハハハハ! さっすがアタシニャ! 今のナイフ捌き見たかニャ!?」
 
 あまりの大音量に、「ヒィッ!?」と情けない声を上げる。情けない俺に変わって、ティノアが拳を構えながら俺の背後に立つ人影を睨みつけた。
 「お前は誰だ?」
 「……むっ。命の恩猫に向かって、その敵意は何ニャ!?」
 命の恩猫=c…?
 俺は恐る恐る振り返って、声の主を見上げた。

 すらりと伸びた足は真っ白な毛で覆われていて、赤毛の三つ編みが腰辺りまで伸びていた。その髪の毛からぴょこんと猫耳が飛び出している。おまけに見事な猫目。どこからどうみても、わかりやすいほど猫だ。
 獣人の女の子は俺とティノア、それにラギを眺めて、腰に手を当ててにやりと笑った。

 「よく聞くニャ人間と竜人! アタシの名前はロロ。いずれはファウリンドに名前を轟かせる、大盗賊ニャー!」

 偉そうだ。犯罪者なのにとてつもなく偉そうだ。
 俺は「はぁ」と気の抜けた返事しかできなかったが、ロロと名乗った獣人は、不服そうに鼻を鳴らした。
 
 「むっ! そんな覇気の無さでよく生き残れたニャ! しかしそのぼんやりした顔と行動、迷宮では命取りニャよ!」
 「覇気が無いは余計だ!」

 すでに我慢の限界値を越えていた俺は、この機を逃さずツッコむ……ティノアの後ろに隠れて、というのが最高にダサいけど。
 白猫の自称大盗賊はどこまでも偉そうに俺たちをじろじろ眺めた。
 「しっかし……そっちはどういう集まりニャ? 凶暴そうな竜人と、もっと凶暴そうなおねーちゃんと、平凡なおにーちゃん……」

 俺が何かを答える前に、ラギがずいと前に出る。赤い鱗の竜人は、威圧感たっぷりに告げた。

 「騎士団の調査だ」

 ラギが鎧をずいと見せつける。そこには王国騎士の紋章(ドラゴンっぽい)が彫られてあった。

 目が点になるとはこのことだろう。ロロと名乗った自称大盗賊は、目をまん丸に見開いたかと思うと……全速力で逃げ出した。
 さすがに速い。大盗賊と名乗るだけはある。

 しかしとても残念なことに、彼女の行動を読んでいたティノアの行動のほうが素早かった。
 この空間の出口は一つ。つまり、俺達が入ってきた通路だけだ。出口を塞がれたロロは、ティノアとラギに挟まれる形になった。

 「そう慌てるなよ、大盗賊さん。仲間を助けてもらったお礼をしたいだけだ」
 「ちょっ、止めてください。それ本職の人のセリフすぎますよ……」
 さすがに小声で止める。ロロは耳を伏せて泣きそうな顔をしていた。
 うーん、助けてもらってこの仕打ち。どう考えても悪党は俺たちのほうだろう。

 「こ、今回は見逃して欲しいのニャア……! ここ、お宝なんて一つもなかったし、何も盗ってないし、アタシもそろそろ帰ろうと思ってたところニャーよ……」
 確かにここには何も無さそうだ。それに、命を助けてくれた獣人を騎士に突き出すなんてことはできない。

 そう言おうと口を開いた俺に先んじて、出口を塞いでいたティノアがとんでもないことを言い出した。

 「宝なら、さっき見つけたぞ」

 その場にいた全員、つまり俺、ラギ、ロロの視線が、一斉にティノアに注がれる。

 「……はい? ティノアさん、今なんて」
 「だから、宝ならさっき見つけた。その大きな旗の中だ」

 全員の視線が、ティノアから巨大な旗に移される。一際目立つ草の紋様が入った、あの旗だ。
 ラギがちらっと俺を見た。どうやら『ロロを見ておけ』という合図らしい。
 俺が頷くと、ラギはのっしのっしと旗に近づいて、下の部分を一気に捲りあげた。

 埃が舞い散る中、旗の向こう側の壁が窪んでいるのが見える。そして足元には……。

 「宝箱、だ……」

 そこには、意味ありげな意匠が施された箱が置かれていた。埃こそ積もっているものの、金色に縁取られた箱はいかにも何か入っていそうな雰囲気を醸し出している。
 全員が沈黙してその箱を見つめていたが、やがてしびれを切らしたように、ラギがゆっくり近づいていく。

 「だ、だめニャ!」
 ロロの声に、ラギが振り向く。
 「……これはお前のものじゃないぞ。ファウリンドの調査団に預けるのが妥当だ」
 「そ、それはそうだけど! でも宝箱には大抵罠が仕掛けられているのニャ! 不用意に近づいたら危ないんだニャ!」
 
 罠……?
 なんでそんなものがと思ったが、侵入者を捕まえる為にあえて置かれているのかもしれない。古代の人の考えなんてわからない。

 ラギも思うところがあるのか、立ち止まったまま唸っている。

 「……じゃあ、ここに宝があるって報告するだけにしておいたら」
 「駄目だ。その間にも盗賊やらに盗まれたり破壊されたりする恐れがある」
 俺の提案に、ラギは首を横に振った。
 
 「アタシなら、罠を外すことなんて簡単なんだけどニャァ〜……」
 ちらっ、ちらっとこちらを見てくるのはロロだ。盗賊はそんなこともできるのか。

 「駄目に決まってるだろ!」
 ラギの声に、ロロも頬を膨らませる。
 「そんなこと言ったって、宝箱を開けるか放置するかの二択ニャ? そして宝箱を開けるには、ロロの特技が必要なのニャよ!!」
 「犯罪行為をそんなに自信ありげに言うなよ……」

 言い争うロロの肩を持ったのは、意外なことにティノアだった。

 「別にいいじゃないか、それくらい」

 ラギと俺が、ぽかんとティノアを振り返る。逆にロロは目を輝かせた。

 「おお、話のわかるおねーちゃんニャ! 凶暴そうとか言って悪かったニャン!」
 「いやいやティノア、そんなこと許したら宝が盗まれるだろ」
 そんなことしないニャ! とかもっともらしく言っているロロに向かって、ティノアはにっこりと笑う。

 「盗まれたら、その場で捕まえればいい」

 ……味方を得て喜んでいたロロが凍りつく。うん、やっぱりティノアさんはそういう解決方法ですよね。

 意外なことに、ラギは仕方が無いという感じでため息をつく。
 「どうやらそれしか方法は無さそうだな。ロロとやら、宝箱の解錠はできそうか?」
 「……できる、と思うニャァ。その形の宝箱なら開けたことがあるし、構造もわかってるニャよ……でも……」

 「逃げない限り、手荒な真似はしない」とは、ティノアさんのありがたいお言葉だ。それを聞いて、ロロの耳がますます伏せられた。

 「わかったニャ……ハァ、アタシいっつもこんな感じニャ……」
 さすがにちょっと同情する。
 ロロはごそごそと腰の鞄を探り、いくつかの小さな道具を手に取った。

 宝箱は凹型に窪んだ隙間のような場所に、すっぽりと収まっている。近づくと、薄暗い中にも荘厳な雰囲気があった。

 「近づいたら危ないニャよ、少年。罠は結構恐ろしいニャ」

 ロロの忠告は最もだが、解錠の様子をちょっとだけ見てみたい。
 それはどうやらティノアにとっても同じらしく、俺たちは揃ってロロの肩越しから宝箱を覗いた。

 「ロロがちゃんと解錠してくれたら、罠も怖くないだろ?」
 「それはそうだけどニャァ……まっ、そこまで大盗賊のテクニックがみたいって言うなら、しょうがニャいから見せてやるニャ!」

 どうやら煽てると木に登るタイプらしい。ニャハハと笑いながら、ロロは手際よく宝箱を調べ始めた。
 が、すぐに首を傾げる。

 「あれ? 特に何も……罠らしい罠は仕掛けられてないみたいだニャァ」
 鍵穴や蓋の部分をごそごそしていたが、やはり罠は見当たらないらしい。ということは、ここにある宝箱は本当に安置されているものなのか……。
 ロロは鍵穴に細い棒を入れて、ぐりぐりと回し始めた。

 「どうやら本当に本物のお宝が眠っているみたいニャよ!」
 目を輝かせたのはロロだけじゃない。お宝と聞けば誰だって「おお!」という気持ちになる。俺とティノアは思わず身を乗り出した。

 ついにカチリ、と小気味いい音を立てて、錠が開いた。
 中から現れたのは、一枚の紙切れ。

 「?」という顔をして覗き込んだ俺たちは、その紙に書かれている内容を黙読した。

 『盗人に罰を』

 ……あれ? これってもしかして。

 カチン、とさっきの錠の開く音とは違う、硬い音が鳴り響く。次の瞬間、俺たちの立っていた床が、どんどん沈み始めた。
 沈むと言うより、傾いている。

 悲鳴を上げる間もなかった。
 「掴まれ!」
 差し出されたラギの手を誰一人掴むことなく、俺たち三人──つまり、ロロと、そのすぐ後ろで作業を眺めていた俺とティノア──は、底知れぬ闇の中へと滑り落ちていった。


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