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作品名:冒険者は踊る 作者:十羽ふみ

第3回 迷宮は試練を与えるT
 明るさに目を覚ますと、身体の節々が痛んだ。そういえば二日連続でまともな場所で寝ていない。
 ということは、俺は昨日の記憶を失っていない……俺はそう考えながら、肩を伸ばして関節を鳴らした。
 
 ふと部屋の隅に大きな鏡が置いてあるのを見つける。昨日部屋に入ったときには気が付かなかった。よっぽど疲れてたんだな。
 鏡は俺の背丈ほどもある、細長いものだった。下に小さなヒビが入っていて、それがこの部屋に放置されていた原因らしい。

 俺はまじまじと鏡に映った自分の姿を観察した。
 質素なシャツに、薄い革で出来たベスト。ズボンに革靴。腰のベルトには一本の剣が、鞘に収められている。
 一番見たかったのは自分の顔はどこにでもいそうな普通の顔で、髪の毛は緑だった。少し青みがかった髪が、根本から一箇所にくくられている。瞳の色は紫だ。
 これが平均的なのかどうかは置いておいて、個人的な感想は『無難』だった。うーん、このままいけば立派な村人くらいにはなれそう。

 自分の姿を眺めていると、唐突に誰かが後ろにいることに気がついた。
 何故かちょっと悲しげなオリーブ色の瞳。ティノアだった。

 「どぅわ!? え、え、いつの間に!? 」
 
 怯える俺を、ティノアはなんとも言えない表情で見つめてくる。

 「朝食が出来たから呼びに来た。……そんなに自分の顔が好きなのか」
 「え? いや、違、」
 「『そういう類』の奴もいると知ってはいたが、まさかお前がそうだったとは……」
 
 あ、ダメだこの子。話を聞いてない。
 可哀想な人を見る目で俺を眺めるティノアに全力で言い訳しながら、俺は一階へと降りる。

 「だから、自分の顔を見たことがなかったんだって! 記憶喪失なんだよ!! 」
 「……記憶喪失? 」
 胡散臭そうな視線。ナルシストの汚名を回避しようと必死な俺に助け舟を出したのは、ランバートだった。

 「あぁ、言い忘れてたな。ネイトは本当に記憶が無いんだ。その名前も俺がつけたあだ名みたいなもんだし、家がどこかもわからない。だからこのギルドでしばらく働いてもらって、その間に記憶も探してもらおうと思ってな」
 「……本当か? 」
 ティノアの言葉はランバートにじゃなくて、俺に向かって言われたものだ。頷くと、ティノアは俺の手を両手で握った。

 「酷いことを言って済まなかった。そんな事情があったとは。……困ったことがあったら言って欲しい。私でよければ力になろう」

 ……めちゃくちゃ良い子だ。気の毒そうな表情のティノアに、俺は思わず視線を逸らす。暴力女だなんて思ってごめんなさい。あと顔が近いですやめて俺が色んな意味で死んじゃう。

 「い、いや、事情を話して無かった俺も悪かったんだし」とかなんとかもごもご口籠りながら、中央に一つだけ置かれたテーブルに座る。昨日の夜と似たような朝ごはんが並んでいた。

 パンを頬張っていると、ランバートが机の上に一枚の紙を置いた。

 「食べながらでいいから聞いてくれ。これが今、この冒険者ギルドに寄せられている依頼だ」

 紙を覗き込む。そこには遺跡の調査≠ニ書かれていた。

 「このファウリンドの東には、半分土に埋もれた地下遺跡が広がっている。だいぶ調べが進んでいるが、未発掘の箇所も多くてな。そこで調査団が本格的にやってくる前に、危険が無いかどうか見てくるのが、今回の依頼だ」
 
 調査の前の調査って感じか。随分念入りにするんだな。俺の疑問を感じ取ったのか、ランバートが紙を持って付け加えた。

 「調査は国の調査団が指揮する。本来なら騎士が護衛するんだが、今は騎士連中も魔物退治で忙しく、そんな発掘にかまけている暇は無いんだと。だから俺のような民間の冒険者ギルドにも声がかかるってわけだ」

 なるほど。冒険者ギルドには一般人だけじゃなくて、国からの依頼もあるんだな。というか、国からの依頼を受けるなんて名誉なことだし、他のギルドに横取りされたりするんじゃないか?
 
 俺の疑問は、紙の下部分に書いてある説明によって解決した。

 この依頼による報酬:なし

 「儲けにならないじゃないですか」
 思わず言ってしまった俺に、ランバートが肩を落として「そうなんだよなぁ」と同意する。

 「だから他所では割にあわないって、ウチに回されてきたんだ。とにかく国からの依頼だし、成功させればこのギルドが信頼されるようになるかもしれない」

 できたばかりのギルドだって言ってたから、とにかく実績が欲しいんだろう。俺たちの明日がかかってるという意味でも、仕事は選んでいられない。とは言え、やっぱり魔物とか出てくるよなぁ……。
 命がいくつあっても足りなそうだ、と思ったが、ふと見たティノアの横顔は輝いていた。
 すごくわくわくしていらっしゃる。

 「遺跡はどんなところなんだ? 」
 「未発掘部分だから結構奥深くだ。もちろん魔物の数もそこそこ多いし、強い。だからお前たち二人だけというのは不安なんだが……」
 「そんなことはないぞ。大丈夫だ。だって、私は強いからな! 」
 きっぱり言い切って、ティノアは聖母の(ただし暴力の聖母の)笑みを浮かべた。実際強いし、ただの自信だけじゃないところが凄い。

 「でもやっぱり不安はあるよ……俺はこんなだし、あんまり無茶は出来ない」
 「無茶なんてしないさ。とりあえず調査してくればいいんだろう? 」
 「あぁ。それと、遺跡でまだ見つかってないお宝を盗ろうとするなよ? 調査団の奴らから怒られるってのもあるが、呪いや罠がかけられているかもしれないからな」

 とにかく見てくればいいんだ、とランバートが繰り返す。俺としても危険を冒してまで探索なんてしたくない。
 ティノアだけが少し不服そうだったが、とりあえず頷いた。

 その時、ギルドの扉が開いて、巨大な甲冑姿の男が俺たちの前に立った。
 咄嗟にティノアが構える。本能的に敵意を表すティノアに向かって、大男は手で制した。 
 「待て。昨日会っただろう」

 昨日。あの大騒ぎの時に現れた、騎士団の男だ。
 ランバートも慌てて前に出る。
 「あぁ! これはこれはラギ様、昨日に引き続きすみません……」
 どうやら甲冑姿の大男はラギという名前らしい。

 ラギは角のついた兜に手をかけ、取った。

 現れたのは、真紅の鱗に覆われたドラゴンの顔。爬虫類を思わせる鋭い瞳。鋭い牙。
 ラギは呆然と立ち尽くす俺とティノアを見て、ふっと笑った。

 「甲冑姿は窮屈でな。驚かせて悪いが、取らせてもらうぞ」
 
 そりゃあんな角やら牙やらついているなら、窮屈にもなるだろう。妙に大きい鎧も納得が行く。

 しかし、まさか人間じゃないなんて!

 「……ドラゴニュート、か」
 目を見開いて、ティノアが呟く。彼女も初めて見るらしい。
 ラギは軽く咳払いをした。
 「人間たちは俺たちの種族をそう呼ぶな。しかし俺は徒党を組んで旅人を襲う魔物じゃない。歴としたファウリンド騎士団の一員だ」

 ドラゴニュートで、騎士団員。どんな事情があるのか知らないが、かなり変わった経歴の持ち主なのは間違いないだろう。ラギは驚く俺たちを見下ろし、口を開いた。

 「──さて。お前らが何をしようとしていたか、教えてもらおうか」

 まるで尋問されてる気分だ。ランバートが真っ青になった。
 「ひ、人聞きが悪いですよ! 依頼の話ですって! 」
 「依頼? あぁ、そういえばここは冒険者ギルドだったな」
 初めて聞くような驚きっぷりだ。今までここをなんだと思ってたんだ、この竜人。
 「そうですよ、」とランバートががっくりと肩を落としながら続ける。「初めての依頼の話です。例の遺跡を調査しに行こうとしてまして」
 「あぁ、なるほどな。あの遺跡は、本来なら騎士団が同行して調べるべき場所だったが……腕の立つ奴は大体遠方の魔物討伐に駆り出されてる。それで話がこちらに回されてきたのか」
 しかし、とラギは睨みつけるように俺たちを見つめた。正直に言って、生きた心地がしない。

 「にしてもだ。ランバート、まさかこの二人だけで調査に行こうと言うんじゃないだろうな? 」

 図星を指されてランバートが硬直している。代わりに、ティノアが無邪気に答えた。
 「そうだ。私とネイトの二人で行くことになった」
 ラギが目を見張ったのも無理はない。「正気か? 」という、俺にとってはありがたい正論まで飛び出した。
 「子供二人で行く場所じゃないぞ。魔物はそれなりに出る。いくら成果を焦っているとは言え、死んだら元も子も無いだろう」
 心の中で、ラギを全力で応援する俺である。ティノアはむっとした顔で言い返した。
 「そんなこと言っても仕方ない。冒険者は私たちしかいないんだからな」
 「それはそうかもしれんが……お前たちに何かあってみろ、世間は『騎士団の奴らがギルドなんかに仕事を投げたからこんなことになるんだ』と騒ぐんだぞ」
 
 ラギは頭を抱えていたが、やがて諦めたように長々とため息をついた。

 「はぁ……おい、ランバート」
 「は、はい? 」
 「出発を一日延ばせるか? その調査に俺も同行しよう」

 驚いたのは俺たちだ。ランバートが目を白黒させている。
 「い、いや、その……騎士団の仕事は……」
 「どうせ明日は非番だ。その代わり、調査は一日で行けるところまでにする」

 日帰り調査というわけだ。ランバートは小さく口ごもった。

 「えぇ、そりゃありがたいですけど……いいんですか? 」
 「いいも何も。お前に任せておいたら死人が出る。俺がいれば大抵の問題はどうにかなるだろう」

 すごい。頼もしい。
 目を輝かせている俺と違って、ティノアは不満顔だ。ランバートは諦めたように頷いた。騎士には逆らえないんだろう。
 「なら決まりだな。お前たち、準備は念入りにしておけよ」
 そう言い捨てて、ラギはのっしのっしと引き上げていった。


 
 「……まぁ、丁度いいと言えばいいか」
 長いこと椅子にもたれかかっていたランバートが、体を起こしながら言う。
 「考えてみれば、国からの依頼に騎士がついてくるのは当然だからな。お前たちも気が楽だろう」
 ティノアはわかりやすく頬を膨らませていた。
 「私だけでも問題なかったのに」
 「とは言うがな。ラギは保険みたいなものだと考えていればいい。万が一の時のためにいるだけさ。ネイトもそれでいいだろう?」
 「俺は別に構いませんけど」
 なんと言っても初めてのおつかいならぬ冒険なんだ。腕に覚えがある人がいてくれるだけでありがたい。

 それでも不安は拭えない。俺は無意識のうちに鞘を撫でながら、深々とため息をついた。


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