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作品名:冒険者は踊る 作者:十羽ふみ

第2回 暴力女は拳を振るう
 がらがらと馬車が道をゆく。日の暮れ始めた森の道を、俺とおじさんは黙って進み続けた。

 おじさんの名前はランバートと言うらしい。目つきが悪く、コボルトに襲われてなければ山賊か盗賊かと思っただろう。馬車には家財道具が満載されていて、これから行く街に引っ越す途中なのだと言う。

 「お前、名前も思い出せないんだよな」
 おじさんならぬランバートが、唐突に話しかけてきた。物思いに耽っていた俺は、曖昧に返事する。
 「不便だよなぁ。思い出すまでの間、名前をつけてやろうか?」
 「……何かいい名前があるんですか?」
 「いや、ありふれた名前さ。ネイトなんてどうだ」
 ネイト、と口の中で復唱する。悪くない。
 「いいですね。じゃあ当分ネイトって名前で通します」
 「あだ名みたいなもんだと思ってくれよ。もちろん本当の名前を思い出すのが一番だろうがな」
 確かにその通りだ。俺は馬車の進みに合わせてぐらぐら揺れるタンスを支えながら「ありがとうございます」と礼を言った。
 ……ランバートの言う宿≠ノ着くまで俺が潰れてなきゃいいな、と思う。
 
 最後の坂を越えると、緩やかな谷に広がる巨大な壁が見えてきた。山の向こうに沈みかけている夕日を受けて、壁は金色に輝いている。
 「よし、ここまで来れば安全だろう」
 ランバートはそう言って息を吐き出した。
 「ここら辺りまで来たら騎士も見回りに来るし、魔物も人気を恐れて近づかないからな。さて、これからのことだが……」
 来た、と俺は独り身構える。ランバートが後ろを振り返った。

 「まぁお前の顔にも『そんなうまい話があるもんか』って書いてあるけど、今のところ頼れるのは俺しかいない。だろ? だからちょっとした提案なんだが……お前、俺のギルドで働かないか?」
 「ギルド?」

 何か裏があるんだろうとは思ったが、就職のお誘いとは。拍子抜けした俺に、ランバートは手綱を操りながら説明した。
 「実は何を隠そう、俺は冒険者ギルドを設立するために来たんだ。このファウリンドって街には、今まで冒険者ギルドが存在してなかった。優秀な騎士が揃ってたからな。だけど魔物が増えたおかげで騎士様はてんてこ舞い。そこで俺が一旗上げに来たってわけだな」

 冒険者ギルドが何かわからなかったが、察するに何かの組織だろう。さっきからランバートが『冒険者』という言葉を使うのも気になる。
 「すいません、冒険者とかギルドとか、どういう意味ですか?」
 「ああ、記憶が無いってんなら知らなくて当然だよな。冒険者ってのは依頼人から依頼を受けて働く、一種の何でも屋みたいなもんだ。ギルドはその依頼を受ける組織なんだ。ただ、依頼の殆どは魔物退治とか荒事中心だけどな」
 荒事と聞いて俺の内心はざわついた。
 「いや、戦闘とかあんまりしたくないんですけど」
 できれば命のやりとりなんて、せいぜいコボルト程度に留めておいてほしい。さっきのだってまぐれで勝てたようなものかもしれない。そう思うと今更ながら変な汗が出てきた。
 だがランバートはめげずに話を進める。
 「それはわかるけどよ、仕事を選り好みできる立場か? 今はファウリンドも景気が悪くて、お前みたいに素性が知れない者はどこも雇ってくれないぞ?」
 脅し半分真実半分の話に、俺は言葉を詰まらせた。なんてこった、気がついてまだ一日も経ってないのに、逃げられない檻に閉じ込められた気分だ。
 意気消沈している俺に向かって、ランバートが繕うように語気を和らげる。
 「……いや、怯えさせて悪かった。ただ、俺はお前を見込んでお願いしたいんだ。出来たばっかりのギルドになんて誰も信頼を寄せない。だから腕のいい冒険者が必要なんだが……これが中々難しくてなぁ。お前なら剣の腕もあるし態度も丁寧だから、絶対良い冒険者になれると思うんだが」
 冒険者には育ちの良さも必要なんだろうか。なんだかわからないが俺の選択肢は無いに等しいというのは嫌と言うほどわかった。ここは条件を飲むしか無い。
 「わかりました。と言っても、俺にできることなんてなんにもないと思うんですけど」
 「承諾してくれるのか!? いやぁ、すまんな! 本当に助かる!」
 どっちがどっちを助けてるのかわからないほど、ランバートは喜ぶ。まぁ俺にしても渡りに船だし、冒険者に興味が出てきているのも事実だ。しかも野宿をせずに済む。いい事ずくめじゃないか。

 ……いや、正直に言おう。俺の第六感は、なんとなく嫌な予感を嗅ぎ取っている。ランバートが裏表の無い人間だというのはわかっているが、あの喜び方は尋常じゃないぞ。

 俺の冷ややかな視線を受けてか、ランバートは咳払いした。裏表が無いと読んだ俺の感は正しく、しばらくするとランバートのほうから白状する形になった。
 「……実は、言ってないことが一つある。雇った冒険者は、もう一人いるんだ」
 「もう一人?」
 「そう。実はそいつに新店舗の留守を任せてるんだが……こいつが癖のある奴でなぁ」

 うん、嫌な予感が的中した。俺の哀しい第六感に乾杯。

 「できたらでかまわないんだけどな、そいつと組んで仕事をしてもらえないかと思って……いや、無理にとは言わんが」
 「初対面の人間と一緒に仕事、ですか。記憶の無い俺には難しいんじゃ」
 「それがなぁ。なんとなくお前なら、あの子と相性がいい気がするんだ。手綱を上手く引いてくれそうな……」
 どんな例えだよと内心突っ込んで、俺は頬を引き攣らせた。

 そうこうしている内に、馬車はゆるゆると道を進んでいく。呆れるほど大きな門と、それに連なる大きな道が続いていた。夕暮れだと言うのに門近くではまだ市が開かれていて、往来する人々のざわめきや、色とりどりに張られた露天の屋根が見えた。
 「……大きな街だな」
 近づくと更に巨大な印象を与える門では、甲冑に身を包んだ兵士たちがそこここで目を光らせている。だからだろうか、人々もどこかのんびりとしていて平和そうだ。
 ランバートが馬車を早めた。
 「街と言うより国だな。昔はもっと寂れていたらしいが、魔物が増えて以来、南よりこっちのほうが安全だってことで皆避難してきたんだ。王族貴族も一緒にな」
 なるほど、活気があるわけだ。国の中心が揃ってこっちに避難したとあっては、寂れた街を強固にする他無かったんだろう。
 馬車は正門を潜り、ちょっとした検査を受けた。不審物を持ち込ませない為の検査だが、俺の扱いは『引っ越してくる住人とその手伝い人』ということでなんら問われることはなかった。俺は俺のこと、不審人物扱いしてますけど。そんなことはそっと胸に秘めて、俺たちは目的の家を目指した。

 大通りに沿って進むと、広大な広場を取り囲むようにして背の高い建物が並んでいた。綺麗なレンガ造りの建物ばかりだ。
 そのずっと向こう側には、これまた巨大な跳ね橋がかかっている。ランバートに聞くまでも無い。あそこは貴族か王族の住む地区への入口なのだろう。

 馬車はいくつかの広場を通り過ぎ、ちょっと騒がしい通りへ出た。人が多いと言うより、飲食店が多くて、その客が多いと言ったほうが正しいのかもしれない。それにしても、皆ある方向を指差したあと駆け出すのは何故なんだ?

 その時、ランバートが絶望的な声を上げた。
 「あぁ、ティノア……騒ぎを起こしてるんじゃないだろうな」
 ん?と俺は首を傾げる。ティノア。女性の名前だ。ランバートの奥さんだろうか?

 そんなはずはなかった。俺の第六感もそこまではわからないのだから。

 かくして俺たちはランバートの冒険者ギルドに辿り着いた。何故か人混みをかき分けて。
 そう、人が多いと言うよりは、『冒険者ギルドの前に人がたむろしている』と形容したほうが正しい。なんかあちこちから野次も飛んでるし、物々しい雰囲気だ。
 人をかき分けたその先には、一人の少女と、数人のいかつい男たちが対峙していた。

 「てぃ──ティノア!!」
 ランバートが少女に向かって叫んで初めて、俺は理解する。あの線の細い少女がティノアで、留守を……冒険者ギルドの留守をしていた? もしかすると、あの子が俺と組む冒険者?

 頭に大量の「?」を浮かべながら、俺は人混みの中に立ち尽くす。その間にも、ランバートの悲痛な叫び声が、周囲の野次に負けじと響いていた。
 「ティノア! 騒ぎをおこすなとあれほど言ったろう!?」
 「……ランバートか!」

 ぱっ、と。
 まるで花が咲いたような笑顔に、俺は一瞬、釘付けになる。
 長いがところどころハネている黒髪。オリーブ色の瞳。何より、その手に巻かれた真っ赤な布と、重そうな鉄のブーツが印象的だった。こうしてみると女の子というより、野性を取り戻しつつある犬って感じが強い。

 ティノアと呼ばれた少女は、ランバートの姿を見つけると、嬉しそうに手を振った。
 「遅かったじゃないか! ちょっと待っててくれ、こいつらが立ち退きがどうのとうるさいんだ」
 「言ってくれるじゃねぇか、糞ガキが」
 ティノアと対峙していた男の一人が、つばを吐く。上半身は裸で、これでもかとドラゴンの入れ墨を見せつけている。うーん、こっちはわかりやすい。
 「お嬢ちゃんがさっさとその店明け渡さないのが悪いんだぜ……! 今日と言う今日は許さねぇからな」
 「なんだ、やっとやる気になったのか」
 ティノアは朗らかに言って、ボキボキと手を鳴らす男の前に平然と立っていた。逃げ出す素振りも怯える素振りも無い。
 俺の隣では、ランバートが青い顔で震えていた。
 「ちょっと、あれマズいんじゃ?」
 止めなくていいんですか、とたまらず俺は袖を引く。しかしランバートは青い顔のまま首を横に振った。
 「……もうああなっちまったら誰にも止められねぇよ……」
 「いや、止めないと駄目でしょ!? あのティノアって子が──」
 「……祈れ」
 「え?」
 「精一杯祈れ。俺たちにできることは、それしかねぇ」
 なんだかよくわからないが、祈る局面じゃないだろう。俺は視線をティノアに戻した。

 男の一人が、前触れも無くティノアに殴りかかった。全体重が乗っているであろう本気のパンチを繰り出す。
 悲鳴を上げたのは俺のほうだ。
 やられる!
 目を閉じ、でもやっぱり気になるからすぐに開けた俺は、ぽかんと口を開けるハメになった。
 何故か男のほうが倒れている。お腹を抱えて、口から泡を吐いて。
 「ってめぇ! よくもやりやがったな!」
 同じようなチンピラ(こちらは巨大なコウモリの入れ墨をしていた)が、ティノアに襲いかかる。先ほどと変わらず、平然と立っていたティノアは、しかしチンピラ男が間合いに入った瞬間、目にも留まらぬ早さで男の腕を払いあげた。
 「ふっ!」
 気合の声と共に、空いた胴体に膝蹴りが炸裂する。よろめいた男の顎を、ティノアは容赦なく殴りあげた。
 ぐしゃ、と嫌な音と共にコウモリ男が地面に沈み、ぴくぴくと痙攣を繰り返す。壮絶な光景だが、作り出した張本人であるティノアは涼しい顔だ。

 「あまり強くないな。まだやるというのなら付き合うが」
 実に自然な感じで、残りのチンピラ男たちを煽るティノア。「明日暇だから買い物についていってあげる」くらいの気軽さにしか聞こえないのが怖い。

 流石に怖気づいたのか、残ったチンピラ男たちの返事は無かった。だが、彼らに逃げると言う選択肢は無かったのか。鳥の入れ墨をした男と、よくわからない模様の入れ墨をした男は、互いに視線を交わして頷き合うと、二人してティノアに襲いかかった。
 一人ずつが駄目なら二人同時でという考えの元に生み出されたこの戦法は、悲しいかな少女にはまるで通じなかった。
 
 まず一人は、ティノアに手と足を同時に払われた。その間に二人目が到達したわけだが、よろめいた一人目の男が邪魔になって思うように進めない。そうこうしているうちにティノアはわずかに距離を取り、そして一切慈悲の無い拳を、一人目の男の脇腹に浴びせた。吹き飛ぶ一人目(ちなみによくわからない模様の入れ墨男)。
 二人目は、そこに勝機を見出したようだ。わずかに体勢を崩しているティノアに向かって、今度こそ渾身の拳を繰り出す。だがティノアはわずかに身体を捻ると、その攻撃を難なく避けてみせた。
 二人目の男が次の攻撃を仕掛ける機会は、無かった。
 伸ばしきった腕を戻すより早く、ティノアが男の股間を蹴り上げていた。

 どうして人間は、一人の少女の危機よりも、圧倒的に強そうな男たちの苦悶に同調してしまうのだろうか。
 少なくとも、俺と周囲の男たち──ランバート含む──は、一斉に股間を押さえて「オゥ……」と呻いた。
 だってあの靴、鉄だよ? いやさすがに鉄はマズいって。

 俺たちの架空の痛みを知ってか知らずか、ティノアはやはり涼しげな表情で立っている。最初に見たときと少しも変わらず、息も上がっていない。

 ランバートの言っていた『祈り』は、もしかしなくても、『男たちの無事を祈れ』と言う意味だったのか。結局虚しい祈りだったな……。

 「終わったぞ、ランバート」
 ティノアに呼びかけられて、ランバートはびくっとした。無理もない。だって皆青い顔で冷や汗を流してるんだから、その元凶(?)である少女に呼びかけられて恐怖心を覚えない男はいない、と断言できる。
 ランバートはぎくしゃくとした笑みを浮かべた。
 「あ、あぁ……長い間留守にしてて悪かったな、ティノア」
 「いや。最初は退屈だったが、途中から店を寄越せと言ってくる奴らが来てな。でも問題は起こしてないぞ?」
 嘘をつけ、嘘を! と突っ込みたかったのは俺だけじゃなかったはずだが、ランバートは言葉を飲み込んで頷くだけだった。
 「そ、そうだな。とにかく、お前に怪我が無くてよかった」
 「当然だ! 私は強いからな!」
 ……その笑みは、無邪気な子犬を彷彿とさせる。コボルトと言い、俺には犬の呪いがかけられているのかもしれない。


 甲冑を着た兵士たちが乗り込んできたのは、丁度その時だった。

 「こら! お前たち、ここで何してるんだ!」
 先頭の兵士が怒鳴ると、見物人達は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。半死半生の男たちも、仲間が連れて行ったのか、いつの間にか姿を消していた。

 残された俺たちは容赦なく兵士たちに取り囲まれた。
 「ランバート、また何かやらかしたのか?」
 「いえ、そうじゃないんですが……」
 歯切れの悪い返答に、一際大きな甲冑姿の兵士がため息をつく。どうやら顔見知りのようだ。

 「喧嘩があっているとの通報があったんだが、本当に何もなかったんだな」
 威圧的な物言いと、甲冑に刻まれた紋章。もしかすると彼らが騎士なのかもしれない。
 ランバートが曖昧に答え、大男が胡散臭そうにため息をつくのを数回繰り返して、俺たちは漸く開放された。

 「まぁ、死傷者がいなかったのが幸いだが……お前たち、今度騒ぎを起こしたら牢屋に入ってもらうからな」
 えっ今回のは別にいいんだ。チンピラ入れ墨軍団はなんか瀕死っぽかったけど大丈夫か? っていうかさり気なく俺も仲間に入ってません?

 そんなことが言えるはずも無く、俺もランバートも商人のように笑顔を作り続けている。大丈夫、何の問題もありませんよ、そろそろご公務に戻られてはいかがです?
 ティノアが会話に入ってこなかったのが救いだ。口を開けば何を言い出すかわからない。

 若干一名の犯罪者を庇う俺たちに、甲冑越しにでもわかるほどの胡散臭そうな視線を寄越して、騎士たちが去っていく。俺とランバートは騎士の姿が見えなくなるまで作り笑いを続けていた。


 「とんでもないことに巻き込んじまって悪かったなぁ」
 「いや、大したことにならなくて良かったですよ」

 冒険者ギルドに入ると、中はガランとしていた。表も質素な木の看板が掲げられているだけで、何をするところなのかイマイチわかりづらい。明日は持ってきた家財を揃えるそうで、そういう意味でも俺がやってきたのは幸運だと、ランバートは疲れた顔で笑った。

 「ま、お前さんを拾えたのが救いだったな……おっと、ティノアの紹介がまだだった」
 見ると、先程男たちを叩きのめした少女が、俺の事をじーっと眺めている。ちょっと、いやかなり恐い。

 「この子はティノア。俺の故郷の知り合いの娘さんだ。ティノア、こっちはネイト。さっき知り合ったばかりだが、悪い奴じゃないぞ」
 ランバートの『悪い奴じゃない』に力を入れた説明が効いたのか、若干疑わしそうだったティノアが漸く微笑んだ。

 「なんだ、ランバートの知り合いか。私はてっきりあの男たちの仲間かと思った」
 「い、いやいや、それはないから」

 「実は彼にも仕事を頼もうかと思っていてな」とランバートが続ける。
 「ほら、ウチは出来たばかりで戦力的にも不安があるだろう? その点ネイトは実力もあるし、お前の助けになると思うんだ」
 「そうなのか? 」
 ティノアが不思議そうに首を傾げ、そして何かに納得したように目を輝かせた。
 
 「ということはお前、強いんだな! 」

 満面の笑みだ。
 強さこそが彼女にとってのステイタスらしい。どちらかというと獲物を見つけた猛禽類みたいな喜びようだけど、俺大丈夫ですよね?
 「……ティノア、頼むから彼と力試ししようとか考えるなよ? 」
 「どうして? その為に来たんじゃないのか? 」
 「いや、違うから」
 ランバートがため息をつき、ティノアはまだ不思議そうにというか怪訝そうに首を捻っている。どうやら俺と勝負したいらしいが、さっきの腕前を見た以上、俺が頷くことは絶対に無い。簡単に言うと殺される。

 とにかく、とランバートが手を叩いた。
 「今日は飯を食って寝るぞ。もういい時間だし明日は忙しくなる……仕事の話も明日だ」

 有無を言わせない切り上げ方だったが、飯≠ニいう単語の威力は凄い。俺もティノアも、思い出したかのように鳴りはじめた空っぽの胃袋の為に、さっと気分を切り替えたのだった。



 干した肉を戻したものと、乾燥させたフルーツ。少々固いパンを甘いお茶で流し込んで、ささやかな晩餐は終わった。
 
 「とりあえず今日は休め。お前たちの部屋はこの二階だ。空き部屋を適当に改造してくれ」
 投げやり且つありがたいお言葉だった。ランバートは疲れているらしく、眠そうに目を擦っている。そう言われてみれば俺も眠い。

 俺は適当な部屋を漁り、なんとか寝床らしきものを整える。そこら辺に布やら空の木箱やらが散乱していて、元はただの空き家だったことが伺えた。一応、街の一等地だから、そこそこの価値はあるんだろう。

 今日は目が醒めてから色々ありすぎた……。そう言えば俺には記憶がなかったんだっけ、と今更ながら思い出す。記憶が無いことが記憶に無いとか、笑えないんだけど。
 でも命を落とさなかっただけマシだな、と大雑把に今日を振り返り、俺は布を体に巻き付けて目を閉じた。

 さよなら、昨日の(酔っていたかもしれない)俺。
 おやすみ、今日の俺。
 頑張れ、明日からの俺。


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