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作品名:機巧の心は約束を違える 作者:栄久里丈太郎

第8回 第1章 面影との邂逅 6
「え〜と、その……」
リクライニングチェアに座りながら 小さくなる団長はベットに腰掛ける先輩へ気まずそうな視線をチラチラと向けている。
彼の顔面には綺麗に鞄の跡が赤く刻まれており、時間が経てば自然と消えるだろうが痛々しい事に変わりない。
「ごっごめんなさい、動転して思わずその、先輩の顔にあの!」
捲し立てながら謝罪するココウィル、反省の色は有り有りと見て取れる。
「気にするな、大した事ないし別に平気だ」
「でっでも!」
「だから気にするな」
トーマは優しく歳下の団長を宥めてやる、上司とは言えハイスクールの学生であるのもまた事実、気に留めないのも先輩の度量だ。
「そーそー気にしなくて良いわよ、そこの朴念仁って頑丈に決まってるし大丈夫だって」
「お前は気にするどころか気に病むくらい反省しろ」
事の発端であるエリスに対しては辛辣になるトーマ。
件の彼女は流石に服を着込んだがダメージジーンズに白地のTシャツと随分ラフな格好だ。
昨日のコート下の装いそのままらしい。
直に床へ胡座をかいたリリスはトーマとココウィルに睨まれながらもどこ吹く風かヘラヘラしている。
「大体拘束はどうした、厳重に縛った筈だぞ」
「ああっあれね、あんな物はチョットしたコツでチョチョっとすれば簡単にね」
「答えになってない、そもそも何故勝手にシャワーを使って挙句ココウィルを勝手に部屋にあげたんだ」
「それは昨日の事後で汗だくで気持ち悪かったし、その子をあげたのはインターホンが鳴ったからだよ」
「じっ事後!」
またもやココウィルがあらぬ誤解を抱きそうになる。
「誤解を招く言い方をするな、お前が汗だくなのは昨夜の戦闘でお前が使った包術の炎のせいだろう」
「あれれ〜誤解されて困るなんて、もしかしてその子と出来てんの?」
「いや〜それだと私としては幸せ全開なので俄然ウェルカムな展開ですけど」
「ココウィルもややこしくしないでくれ」
ココウィルを呼べば少しはマシになるかと思えば、このままでは頭痛の種が二倍に増えるだけだ。
「さっさと本題に入るぞ団長。この女が例のレネゲートと思われる人物だ、所持していたハンドガンにレネゲートのエンブレムが刻まれていた、昨夜ビル街で俺を襲撃し現在は乱れる世界を付加し包術の行使を封じている」
「分かりました。でも何で先輩の部屋に拘束してるんですか?」
「情報をこちらに提供する条件として自身の保護を俺個人に申し出て来たからだ、期間は1週間、その間あらゆる障害から守る事で情報を提供すると言っている」
「そそっそいうこと、でもさ早速ココウィルちゃんを呼んじゃうなんて、これって契約違反じゃないのトーマ君?」
「ちょっと待って下さい、もしかして貴方私の事知ってるんですか?」
ココウィルが二人に割って入る。
「当然、特務師団黒の蝙蝠団長ココウィル・ツヴァイトーク、年齢は16歳、9歳の時特務師団に保護されその後入団、7年の期間を得て実席を積み上げ昨年から団長に抜擢され現在は共学のハイスクールに通いながら軍を兼任する若きエリート様、ついでにスリーサイズは78、59、84のスレンダーが魅力のキュートガールよね」
「わわわわ、スリーサイズは余計ですー!」
経歴だけでなく乙女の秘密まで暴かれ慌てふためく団長である。
(この女、やはり俺たちを熟知している)
最初は接触対象のトーマのみを調べ上げたのかと考えたが、ココウィルのデータについても事細かに熟知されている。こうなれば他の団員についても暴かれていると考えてほぼ間違い無いだろう。
(だがどうやって、特務師団は存在自体が非公式、調べ上げるにも元々の手掛かりになり得る情報は何処にも記録されていない筈が一体……)
「でっ契約についてはどうなのトーマ君?」
「リリスを保護するのは飽くまで俺であるのは変わりない、それを前提としてココウィルに
関しても個人的に協力を依頼しているだけだ」
「物は言いようだね」
「契約に第三者への協力を禁じると言う内容は無かったからな」
「ホントに頭が切れるわね君は」
エリスはスゥッと視線を細める、何処か見透かす様に、探る様に。
「こほん、それではそろそろ本題に入りましょう」
赤面から回復したココウィルが小さく咳払いする。
「リリスさんの条件とトーマ先輩の意思を組んで私は今回飽くまで先輩に個人的に協力をする事にします、軍も特務師団にもこの情報はリークはしません」
「ココウィルちゃん理解あるね」
「愛しい先輩の頼みですから」
リリスとココウィルは互いに笑みながら、しかし視線で牽制し合う。静かな火花は両者の間で確かに散っている。
(女性と言うのは恐いものだ)
リリスのしたたかさを感じたからこそココウィルを呼んでおいて正解だった。トーマでは探られる一方であったであろう会話の空気に団長はあっさりと踏み入ってくれた。
(ココウィルは歳の割に相手の心理を読むのに長ける、特務の団長がしたたかだとアピール
出来ればリリスに対しこちらへの牽制になるだろう)
「じゃあ先輩、私はこれからどうすればいいでしょう?)
「乱れる世界の再付加を頼む、俺の包術より支配属性を持つココウィルの方が継続時間は長いだろうからな」
「分かりました」
ココウィルはリクライニングチェアから離れ、床に座るエリスの前に立つ。
少女の足下に桜色の方陣が展開される。
「世界に逃れられぬ裁き、禁獄を与える」
包術が発動、桜色の包力が鎖状に視覚化しエリスの体を拘束、後に消滅した。
「私の術式は大抵の人間であれば一週間は包術の行使を阻害して、無理に使用しようとすれば意識を強制的に奪う改良も施してあります、無駄な抵抗はしない方が身のためですよ」
「こっわ、手厳しいね」
「犯罪者に容赦はしません」
お互い変わりない笑みを浮かべ牽制は続く。
「別にいっか、それよりも目の前の光景満喫した方が良いしね」
「えっ?」
ココウィルはそこでハッと気がつく。床に座るエリスは不自然に前屈している、その前に立つと言うことはスカート姿の自分にとって危険であった。
「ピンクのフリルか、勝負下着?」
「きゃあああああああああああ!」
ココウィルはスカートを両手で必死に抑え涙目になりながらトーマの方へ振り向いた。
「……」
愛しの先輩は目を閉じたまま無言で鎮座している、しかしよく観察してみれば両耳たぶが赤くなっていた
「うっえぐっ、いやぁああぁぁああぁああぁ!」
ココウィルはそのままの勢いでドアを突き抜け外に飛び出してしまった、鞄は置いたままだ。
「ココウィルをからかうのもいい加減しろ」
閉じた目を開きエリスを半睨みにするトーマ。
「え〜、だって団長モードのココウィルちゃんは手強そうだけど学生モードはウブで可愛いから弄らないと損でしょ」
「まったく……」
トーマも立ち上がり、後輩の忘れ物を手に取ると後を追う様にドアへと向かう。
「ちょっと、追いかけるの?」
「ココウィルはこれから学校だ、鞄がないと困るだろ」
「やさし〜ね君は」
「それから……」
ベットの上に放置していたビニール袋をリリスへと放り、彼女はパシッとそれをキャッチする。
「朝食だ、食べておけ」
「えっ私の?」
「他に誰がいるんだ、今度こそ大人しくしてろ」
バタバタと駆け出していくトーマ。
部屋にはポツリとリリスだけが残った。
「……どれどれ」
ビニール袋には出来合いのサンドウィッチとパックのコーヒーが一つずつ、丁寧に使い捨てのお手拭きも入っている。
「あちゃ〜私どっちかって言うと紅茶派なのに、わかってないなぁもう」
出会ったばかりで好みを要求するのも無理が有るのは重々承知で愚痴るリリス。
サンドウィッチの包みを開き一口かじる。
「……ホント、優しいんだから」
ローストチキンのサンドウィッチ、偶然とは言えそれがリリスの好物であることを彼が知る由も無い。


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