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作品名:もう一度、抱きしめて 作者:

第1回 Prologue
 聞こえない。
 愛おしいあの声が。
 真っ暗な世界で、かの声を求めただひたすらにもがいていた。
 足を大きくばたつかせ、手で空を掻き……それそのものは見えないのに。
 自分自身すら視認することの叶わない真っ暗な視野の中、音も一切存在しなかった。
 躍起になって足掻いている音も、それから、かすかな匂いも感じられず、やがて手足の感覚も、まるで幻であったかのように消え去っていった。
 ただ、意識だけがそこにはあった。
 必死にもがくことも許されず。
 愛おしい彼女の声が聴こえないと、訴えるだけの自我。

ーー彼女……?

 一瞬前の自分に対し、不意に疑問を抱いた。
 彼女とは何者であったか。
 本当に愛おしんでいたのか。
 愛おしさとは、どんなものであったか。
 愛しいという感情……それすら見失って、脳が痺れてゆく感覚。
 さっきまで自分は一体何を求めていたのか。
 何のために必死になっていたのか。
 追求する気力すらも姿を消し、手元には何もなくなる。
 ただ、真っ暗な世界だけが広がっていたーー。


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