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作品名:Roichi's Birthday 2017 作者:

最終回 1
(なんで、よりによって……)
 ベッドの上で天井を見つめ、ため息をつく。一二月二日の真昼、目元まで布団の中へ潜りこむと、ほのかに遼一さんの匂いがして、また深く息を吐いた。
 そのとき、かすかな物音とともに寝室のドアが開いた。
「……なんだ、起きてたのか」
「遼一さん……」
 彼をぼんやりと仰げば、その手にはお盆を持っている。ゆっくりとした動きでサイドテーブルに置くのを、じっと観察した。
「そんなに見つめられると、穴があくんだけど」
「いつも言ってますけど、あきませんってば……」
「思ったより元気そうだな」
 そう言って、ベッドの端に腰かけた遼一さんが柔らかい表情を見せる。力の抜けた、穏やかな顔。
「すみません、せっかくお休みにしてもらったのに……」
 申し訳なさに目を伏せると、くしゃりと前髪を撫でてくれる。優しい手つきーーいつも通りのその感触に身を任せる。
「俺の誕生日だからって、頑張りすぎたんじゃないの」
「うっ……そんなつもりはなかったんですけど」
 もじもじしながら言い返すと、お盆からタオルを取って頬を拭いてくれる。ひんやりとした感触が輪郭をなぞって、目を閉じた。
「ま……俺としては、どんな形であれこうしてお前と過ごせるなら、それで十分だけどな」
 遼一さんなら、そう言うだろうと思った。しかし、そんな彼の底なしの優しさに甘えてばかりもいられない。ゆっくり目を開くと、タオルを戻す横顔を見据えた。
「……それで? 今年はどんな風に祝ってくれるつもりだったんだ?」
「え?」
「前日から空けとけって言ったからには、たいそうな計画があったんじゃないの」
 そんな、たいそうなことは……そうつぶやきかけて、重要なことに気づく。
「大変! 電話しないと」
 慌てて起き上がるが、遼一さんに片手で制される。ベッドを降りようともがくも、やんわりと押さえつけられた。
「どうしたのよ」
「ホテル、予約していたんですけれど。キャンセルの電話をしないと……」
「どこのホテル?」
「はい?」
「あとで俺がかけておくから。どこ?」
 遼一さんは、さも当然のように言い切る。起き上がるのは諦めて横たわりながらも、なんでも彼に甘えるわけにはいかない。
「で、でも。電話くらいは自分でかけられますよ」
「いいから。ほら、言ってみ」
 優しい口調ながらも有無を言わさぬ様子に、渋々その名前を口にすると、大きくうなずいた。
「それで。当日はどんな計画を立てていたんだ?」
「うぅ……もう、隠してもしょうがないですもんね……」
「そういうこと」
 鼻先まで布団に隠れながら彼を見上げる。ふわりと細められた目元に、つい閉口してしまった。
「あのですね……長野県に、行こうとしてました」
 心地よい沈黙が、先を促してくれる。
「職場で話題になったんですけど、今、日本のワインが熱いらしくて」
「ジャパニーズワインか……」
「はい。同僚が長野へ旅行に行った際、ワイナリーで生産しているブドウジュースをお土産に買ってきて。それが、すごく美味しかったんです。それで、遼一さんワインも好きだし、どうかなって思って……」
 尻すぼみになってしまう声。計画を暴露しながら、予定通りに叶えてあげられなかった不甲斐なさを強く自覚する。
「すみません、こんなタイミングで体調崩しちゃって……でもっ。今日は無理でも、今度お休みが取れたら、一緒に行きましょう?」
 勢いのまま言い切って、それから無性に恥ずかしくなってくる。「あの、興味がなければ、無理にとは言いませんけど……」
「……遥香」
 突然名前を呼ばれて、ピクッと震える。おずおずと見上げると、軽く微笑んで頭を撫でてくれた。
「っな……なんですか……」
「いーや? ウチの嫁は、本当に俺のことが大好きなんだと思ってな」
「〜っ。大好きですよ……遼一さんしか、見えないくらい……」
「……ありがとな」
 ささやくような声とともに、額に触れる、微かな熱。やわらかい唇の感触に、頬がかっと燃えた。
「かえって熱が上がったか? ……今日はしっかり寝て、早く治せよ」
「はい……」
「寝つくまで、そばにいるから」
 吐息だけの言葉のあと、大きな手が頭を撫でてくれる。その感触の心地よさと安心感から、徐々に微睡んでくるようだった。そのまま、ふわふわとした感覚に身を任せる。身体を支えるためベッドについているもう一方の手に触れると、意識を手放した。
「……愛してる」
 そんな彼の甘い声が世界中に響き渡ったかのように感じたのは、夢か現実か。


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