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作品名:酔魔 作者:

最終回 まどろむときのやさしさ
「……それで、先生は顔真っ赤になっちゃって、誰が家まで送るかって……」
 にこにこと楽しそうな横顔を眺めるベッドの上。ほんのり色づいた頬に、かすかに潤んだ瞳。ふわふわとさわり心地のよい髪を優しく触れながら、止まらぬおしゃべりを聞くこの時間も、なかなか幸せなものだ。
「……だったんですよ。遼一さん、どう思います?」
「そうねぇ……」
 小首を傾げて俺からの返答を待つ遥香は、眠たそうに瞬きを繰り返している。うとうとしながらも、ずっとこのことを俺に話し聞かせたくて帰ってきたのだろう、重たそうな所作で瞼を何度も持ち上げている。
「そろそろ寝た方がいいんじゃないか?」
 思ったままに言うと、むっ、とわざわざ声に出して口を尖らせる。
「まだイヤです、遼一さんの答え聞いてないし、こうしてお話ししてたいんですもん」
「気持ちはわかるけどな」
「イヤですーっ」
 枕に顔をうずめて足をバタつかせる始末。アルコールが入って、退行しての行動だろうが、それですらも可愛いと思ってしまう。
 どんな幼稚な行動をしても、コイツのすることなら見ているだけで心が満たされるに違いなかった。駄々をこねるような行為にさえ、目は釘付けで、心音はそのリズムを速めるのだ。
「わかった、わかったって……」
 宥めるように肩を抱き、答えてやると、目を細め唇で弧を描き、続きを話し始めた。

 ーーまったく、人の気も知らないで。

 抱きしめて唇を貪りたいのをどれだけ苦労して抑えているか。俺とおしゃべりがしたいコイツは、想像すらしないことだろう。
「よほど楽しかったみたいだねぇ、同窓会」
 一区切りついたところで聞いてみる。大きくうなずくと、ふふっ、と一人で笑っている。
「高校生の友だちって、きっと一生の友達なんですよ」
「……そうか」
「きっとそうです」
 そしてまた、あの友達がどうのと、話題は尽きない。
 その間にも、ふらふらと揺れる視線に、ときおり呂律が回らないらしい言葉、眠たくなってふと声が途切れたときの表情……いくら見ていても飽きない。
 どれほど自分が観察されているのか、今すぐ分からせてやりたいくらいに愛おしい。
 ややあって、ふいに途切れた言葉が、そのまま続かなかった。すうすうと静かな寝息とともに、小さく上下する背中。いつもより少しだけ高い体温のためか、大きな鼓動が手のひらに伝わってくる。
 繊細な芸術作品を扱うのと同じように抱きよせると、腕が絡みついてくる。
「ん……りょういち、さん……」
 もぞもぞと俺の胸に顔をうずめると、そのまま呼吸を繰り返している。
 そっと頭のてっぺんの髪に唇を寄せると、広いベッドの中央に身をよせ合ったまま、目を閉じた。


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