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作品名:刻み小鴉‐夢魔の絡繰り‐ 作者:鈴木翔太

第2回 2


 炎天のもと、一列に並んでねり歩く三人組を、町人たちは珍しくもなさそうにごく平然と通り過ぎていく。
 この鶴町(つるまち)に生きるみんなは、得物を腰にぶら下げた旅人の姿など見慣れてしまったのだろう。
「あんま期待されてなさげだな。てーか、俺らのこと耳にしたことねぇのか?」
「今まで、俺たちに覚えのある奴に会ってどうなった? 好都合ってもんだろ」
「怯えられるんも構えられるんも、ごめんこうむり。このくらいが丁度ええて」
 小狐丸(こぎつねまる)が口を動かせば、小鴉丸(こがらすまる)がぶっきらぼうに応じ、初春(はつはる)が締め括りの言を引き取る。この場所に辿り着くまでに戦場を三つ渡ってきた浪人三人組は、むしろ町人たちの対応がありがたいくらいだった。
 これから一仕事ひかえていることを考慮すれば、落ち着ける時はほしいもの。
 なんなら、茶屋にでも立ち寄って一服決められれば、これ以上はないといったところである。
「迎えが来るまえに、空きっ腹に何か詰めるぞ」
「早食いも芸のうちってなもんだ。まかしとけ」
「ご飯かき込むん苦手やけど、しゃあなしや。遅れても怒らんといてな?」
 ふたりの返事を耳朶に受け、小鴉丸は灰色の瞳を、大通りの店先へと向ける。
 食事処を見定める合間には、気を引き締めようという想いもあってのことか、自然とこれまでの経緯(いきさつ)が頭のなかで想起された。
 ――鶴と呼ばれる町には、たいへんに美しい妃(きさき)がいる。
 わざわざ、こんな地に足を運ぶことにした発端は、そんな噂話だったはずだ。
 男にとって、浮世の華とは物事へのやる気と結びつく重要な生き甲斐であり、小鴉丸からしても、そうした風評にこれっぽっちも興がそそられないと言えば、それは真っ赤な嘘となる。
 だがしかし、たったそれしきのことで遠路を跨ぐ気になるわけもなく、三人が履物をすり減らして此処までやって来たは、徐々に噂話に変化が顕れてきたからにほかならない。
 鶴と呼ばれる町では、夫を討ち取られ、妃が泣き暮らしているという。
 最初の内容の変化は、この程度のものだった。治世が大いに乱れている現状。そういった話はあちらこちらに転がっている。
 しかし、なんとも耳障りなことに、ここからまたも噂話は内容を変じさせる。
 いまや妃は次なる婿を求めて、各地より腕利きの男たちを集めているという。それだけにとどまらず、カラクリを用いてみなを競わせ、自分に釣り合う伴侶を死人が出ることも厭わずに吟味している、と。
 これは正気の沙汰ではない。
 婿選びに、なぜ屍が転がる?
 小鴉丸は、その美しき妃とやらに会わねばならない、とした義務に駆られた。
 武士の手で陣中に散るが武門の本懐。心得なき相手に命を散らすなど、刀剣を携えた者からすれば、ひたすら無念。
 それなる妃――諸把へ、無粋であると告げなくては、胸の閊えが下りぬのだ。


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