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作品名:刻み小鴉‐夢魔の絡繰り‐ 作者:鈴木翔太

第1回 1


   壱

 日差しはとうに陰ったというのに、茹るように暑い夏の夜。
 カラクリ仕掛けの奇怪なる城砦のなかでは、月光に照らされる幾つもの機器が音を立てていた。機器を稼動させているのは、半透明な球体。球のなかは身動きをとっている内容物がおぼろげにうかがえるが、その実体は判然としない。
 孵化するまえの妖魔の卵だと言われれば、聞く者はそんな気さえしただろう。
 機器の奏でる音に調子を合わせ、浴場で身を清める諸把(もろは)は、湯船に浸かると嘆息して眼を閉じる。感じとるのは、すでに手中にした財への喜悦と、乱世を駆けた男たちの息吹だ。
 争いとは、絶えずヒトの世に在り続けるもの。
 いかに形容を変じようとも、いかに勝敗に差があっても、そのもの自体が姿を消すことなど、これから先の時代とてありえぬに違いない。
 競わせれば、男たちの力量はおのずと明らかになる。
 強い者には権力が備わり、一財を築く資格が与えられる。
 弱い者は服従が強いられ、生きるため心身を他へ捧げる。
 勝てばすべてを奪い取ることができ、敗れればすべてを差し出すほかにない。
 戦(いくさ)とは、それを具体的に人民に知らしめた点で、非常に無駄のない教材であったように思う。
 実り豊かなる世界を存分に興じるためには、勝利を手にしなくてはならない。そのためには聡くあることだ。
 資質や才能だけでは、時の運をものにすることはできない。先述したふたつを活用するためには、それらを育ませる土壌をならすことが求められるのだ。
「……ッ! なんとまぁ……!!」
 暫時、支配欲求が満たされる実感を堪能していた諸把だったが、目蓋を開き、突如として総身に熱をゆき渡らせた気配の正体を探った。
 そして、その者の素性が知れると同時に端正な相貌をゆがめ、笑い声を唇からもれださせた。
 大層な獲物が網にかかったのだ。これには喜ばずにはいられない。
 名にし負う使い手が、男として我が身を引き立て、従順に侍り、その魂までも献上する。想像するだけでも痛快なことではないか。
「〈刻み小鴉〉。彼の者の遺産≠携えた者――うふふ、いい男の匂いがする」
 獲物の姿を視つめて、諸把は愛しい相手に囁くかのごとく、独りつぶやいた。


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