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作品名:★Freshness(フレッシュネス)★ 作者:鈴木翔太

第7回 7


「ととっとっ、おいおい! なんだよロレーヌ、引っ張るなって!」
「…………」
「……? ロレーヌ?」
 ガレージまで進み終えて、ロレーヌはフレイルを引きずりまわす足を止めた。
 フレイルは幼馴染の弱まった腕の力から自由になると、彼女の正面に移動し、言葉に表されなかった感情を探ってみることとする。
 けれども、ロレーヌにはフレイルの考えなど容易に察せられたらしく、素早く片手に持った紙袋で顔を隠してこれを拒んだ。
 タッチの差に少し悔しい想いを抱きながら、実質、目的が果たされたことに、フレイルは一応の安堵を得た。この顔を隠そうとするという行為は、ロレーヌが幼い頃から変わらない、拗ねたときに見せる仕草であったからだ。
 もっとも、なぜ顔を隠すのか、という理由自体は解明できていないのだが――想像してみるにロレーヌは、拗ねるという感情に恥を覚えているのだろう。
 それゆえ幼い時分から、いかにしたなら第三者にそれを悟られずに済むのかを考えた結果、こうした癖が形作られることになったのではないだろうか。
「ロレーヌ。ナタルの目つき、そんなに気を悪くするほどのものだったか?」
「いいえ。わたしの気分を害したのは、彼女が全身に包む気配そのものだから」
 あくまでフレイルの知る限りではあるが、ロレーヌがこんなにもはっきりと、誰かを悪く言うのは珍しい現象だった。
 比較するまでもなく、ロレーヌとナタルはまるでタイプの違う女性であるし、根本的に生きている世界そのものが異なっているのではないかとさえ思う。
 けれど、そうはいってもフレイルにとっては、どちらもかけがえのない友人。強い仲間意識をもった者同士である。
「あれでいて、あいつもいい奴なんだぜ。おちゃらけてて話しかけやすいしさ」
「フレイル。どうして、あの人の肩を持つようなことを言うのよ」
「いやさ、肩を持つとかじゃなくて。俺はお前にも、俺の仕事仲間たちを好きになってもらいたいんだよ」
「……無茶だよ。わたし、ナタルもアクスも好きじゃないもの。あの二人の底の見えない言動を聞いていると、頭が痛くなってくる」
 仲良くなってもらおうと話題を振ったつもりが、それによってアクスまでもを邪険に思っていることを、ロレーヌはカミングアウトする。
 これに思わず、取りつく島もないのかと脱力しそうになるフレイルだったが、最後の頼みの綱が残っていることに、ややあってから気がついた。
「あれ? ってことは、ダグラスのことは嫌っていないんだよな。良かったぜ、一人でもお前が好印象を抱いてる相手がいて」
「ダグラスさん? だってダグラスさんとは、あなたに次ぐくらいに、昔からの付き合いじゃない。嫌ってるはずがないよ」
 ロレーヌの言うことに、それもそうかと、フレイルは合点がいった。
 ダグラスはこの地の出身ではなかったが、自分とロレーヌが幼児期後半ほどの頃に引っ越してきて以来、親戚のおじさんのようなポストなのだ。
 ――ちなみに、そのダグラスはガレージに来る途中の大広間にて、高いびきをかいて眠り込んでいた。
 本当ならそれを目にしたとき、彼に何かしらの悪戯をしてみたかったのだが、先述のとおり彼女に行動を制限されていたので、その野望は儚くも潰えることと相成ったのである。
「それにあなたやダグラスさんのことは、最初からいい人ってわかってたもの。あの二人とあなたたちとでは、そこが大きく違う」
 とっくに顔から紙袋を取り去っていたロレーヌは、唇を動かしつつ、衣服から図面を取り出してガレージの床に広げた。
 微細に注意書きのされた、どこから見てもお手製品のその図面は、ロレーヌが忙しい日々の合間を縫って作成した努力の結晶であるらしい。
「この話はもうおしまい。フレイル、これを見て」
 自身も床に座り込んだ彼女に手招きをされ、フレイルも片膝をついて、図面に視線を落とした。
 そして、フレイルはそれが何か知れるや、ほどなく両の眼を輝かせる。
 図面に描かれているのは中型の飛翔艇。その実用的な設計工程だった。
 いずれは自らが乗り込み、大空を舞うことを夢見る鮮度≠フ緻密な構造が、素人にもわかりやすく丁寧に書き起こされている。
「こいつは……!! まさかロレーヌ、お前のオリジナルモデル!?」
「うん。どうせだったら、この世にひとつの飛翔艇のほうがいいかと思って」
 興奮気味な言葉に、まんざらでもなさそうに彼女は前髪をかきあげた。
 この仕草もロレーヌの幼い頃からの癖であったのだが、今はそんなことより、ただ高鳴る胸の鼓動を抑えるので精いっぱいだ。
 ――飛翔艇を買い取るとしたならば、その費用は途方もなく高額だ。ならば、なるべくコストを下げて飛翔艇を手にするにはどうすればいいか――?
 その答えとしてフレイルは、おそらく最も単純であろう、自らで飛翔艇を造るという選択肢をすでに選んでいた。
 幸いにも、ひとつひとつの部品をジャンク屋で買い集めれば、それらの値段は驚くほどにリーズナブルだ。そのうえ、理解ある幼馴染という後ろ盾を得ている自分の場合、技術面でのアドバイザーまでも不要であり、その費用はさらに軽減される。
 さらにさらに、自分たちの住む地方都市アルシエロには、住民たちが機械製品を不法投棄する悪名高い名称――その名もガラクタ山――までも存在している。良心の呵責に耐えうるのであれば、事実上無料(ただ)で、必要な部品類を入手することさえも可能なのである。
「ヤッバイな、心臓が今にも喉からポンッと飛び出してきそうだ。こんな技能がロレーヌにあるなんて、俺、ぜんっぜん知らなかったよ」
「技能だなんて言い方、大げさすぎるよ。スクールで一生懸命に勉強してれば、こんなのはどの生徒もできて当たりまえなんだから」
 ちらりと意味ありげに視線を送られ、自分はほんの一瞬、ドキリとなった。
 本来だったなら自分もまだ在学しているはずの施設が話題に出されたことで、数分前までとは違う動悸が、緩やかながらに心臓を圧迫したのだ。
「あー……スクールかぁ。やっぱ、中退せずに通っておけば良かったかもなぁ」
「戻るなら、今からでも遅くないよ。後悔してるなら、願書を書き直そう?」
 ロレーヌはこちらの言葉を真剣に捉え、親身に協力を申し出る。
 彼女の言うことはありがたいけれど、首を縦に振るのはあまり気が進まない。
 目の前に差し出された代物のほうが、自分にとっては魅力が勝ちすぎている。
「うぅーん。でもなぁ、わざわざ戻るほどの場所でもないと思うんだよな」
「どうして? 飛翔艇を持つだけなら、ちゃんと勉強したあとでもできるよ」
「そりゃ、そうだろうけどさ。なんて言うか、もったいない気がするんだ」


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