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作品名:★Freshness(フレッシュネス)★ 作者:鈴木翔太

第53回 53


 フレイルの叫びを聞き入れて、瞬発的に動いたのはロレーヌだった。
 市街ゲート補修整備路を肉体の機能をくまなく使って移動し、彼女はこちらと接触できそうな距離まで行き着くと、アクスに叫ぶ。
「アクス、電磁ロッドを! わたしが彼に手渡すからっ!」
「わかりました。取り損ねるなんてオチは認めませんよ!」
 アクスは例の意地の悪い顔で、電磁ロッドを投げつける。
 彼女がこれを掴み取ると、ゴウッと旋風が音を立て、フレイルがグルナードを従える形で目の前に現れた。
「ありがと、ロレーヌ!」
「うん……、うん……!」
 涙目になってフレイルに言葉を返し、ロレーヌはその場にへたりと座り込む。
 ロッドが受け渡されたことを確認したグルナードは、硬い壁を力強く蹴って、錐揉み状に回転したまま、リタに飛び込んでいった。
「リタ――! 正気に戻れぇッ!」
 電磁ロッドを障壁に突き立て、フレイルは必死にリタに訴えた。
 グルナードの猛突進から繰り出される電磁ロッドは、次々に障壁を砕き割り、相手の懐まで、自分を突き抜けさせる。
 フレイルは幼子を両腕に抱くと、推力を失った上空より地上に落下していく。
 重力加速度の影響を全身に覚えつつ、こちらは声だけを張り続けた。
 従牙たちは自分と主君を地面の激突から救わんがために、壁版や民家の屋根を蹴りつけて地上に急いでいたけれど、間に合うかどうかは怪しいものだ。
「いつまでも寝てんなよ! 頑張れリタ、お前のすごいとこ見せてくれって!」
 耳元で聞こえる言葉に、リタはかすかに反応する。
 顔をこちらのほうへと傾け、あるべき光を琥珀の瞳に宿らせはじめた幼子は、フレイルが従牙から送り込まれた奔流を伝播して、自らの全体像を変質させる。
 リタの背中からは対となる純白の翼が幻出し、各部位も人間の骨格、形状から再構築されていく。
 その姿は、美しくも雄大な白烏。
 成熟した容姿で羽ばたく、この世の至宝。
「……! …………っ!」
 リタは翼に風をまとわせ、鮮やかに飛翔する。
 ロレーヌの方向を目的地としたリタは、しなやかに宙を泳ぎ渡り、フレイルを彼女の隣に降り立たせた。
 そして身体を縮こませるように幼子に戻ると、フレイルの胸に飛び込んで鼻をはたらかせる。ぐりぐりと顔をこすりつかせ、喜びを表現しているらしい。
「え……――リタ、お前……。お前、本当にリタだったのか!?」
「♪♪」
 自分が驚きのあまり顔を覗き込んだなら、相手はにっこりと微笑んだ。
 その態度は、ようやく意図が通じたことを祝っているようにも思える。
「フレイルーっ!」
「えっ、うわっ!」
 命拾いをしたフレイルに向けて、今度はロレーヌが抱き着いてきた。
 情熱的に首に両手をまわしてくるので、照れながら彼女を引き離す。
「し、心臓に悪いな! なんだよっ」
「だって、だって……!」
 うまく言葉にならないロレーヌ。フレイルは幼馴染の落ち着きのない気配に、ややあってから苦笑して、片手で頭を撫でた。
「生きてるよ。ピンピンしてる、なっ?」
「フレイル、フレイル、フレイル……!」
 わっと泣き出した彼女に、フレイルは困り顔で頬をかいた。
 アクスに肩を貸したリジェナは、そんな実妹を見、ゆっくりと歩を進ませる。
 そちらの視線に気づいたフレイルは、補修整備路から立ちあがった。
「お帰りなさい、フレイル。貴方は実に悪運が強い方ですね」
「もしくは、お疲れ様かな。よくぞ結晶体を……、リタを鎮めてくれたな」
 贈られる言葉にフレイルは気を良くしたけれど、おそらくは、こういった甘い追従では済ませてくれないだろう人物を頭に描き、両腕を組んだ。
「良かったら、もっとねぎらってくれよ。ダグラスからはきっと――」
「終わったのなら降りて来い、フレイル。俺からだいっじな話がある」
「……ほーらっ、きた」
 想像どおりであろう、これからダグラスが言い聞かせてくるお説教の数々に、フレイルはげんなりとした顔をする。
 ダグラスはこの渋い顔を遠目に眺め、サングラスをかけ直して歯を覗かせた。
 グルナードとミシルも事件が幕を下ろしたことで、嬉しそうに鳴き声を発し、こちらを両目に捉えている。
「うん? 携帯端末にメールあり、か。ナタルだな、たぶん」
 ダグラスは受信を教える点滅を目に、携帯端末を開いた。
 メールボックスには、ナタルからの絵文字類などのデコレーションの激しい、やたらにチカチカとした一文が届けられていた。
 中身は「ビンゴ飽きた。甘いもの食べたい、作って☆」などという、なんとも力の抜けることが記されていたらしい。
「ったく、あいつは…………? 済んだのが今だと、どうしてわかったんだ?」
 ナタルの非凡なる勘の良さに、ダグラスはらしくもない愛嬌のある仕草にて、ついぞ小首をかしげた。













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