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作品名:★Freshness(フレッシュネス)★ 作者:鈴木翔太

第50回 50


「フレイルは、僕の恩人でした! 僕に安らぎの場を与えてくれた人でした!」
 電磁ロッドを逆手に握った拳で、アクスはファルシオンを殴りつける。
 情けをかけるつもりなど微塵もない。
 こいつだけは、許しを乞い願っても打ちのめす。泣いて謝っても叩きのめす。
「奪った命への報いを与えてやるぞ……この出世欲に憑りつかれた悪魔め!」
「うざってぇええ……! 先に俺を見下したのはお前だろう、アクス――!」
 ファルシオンは拳を受け止め、上体を起こして組み合う姿勢になる。
「あれから、俺は必死だったぜ。二度とお前みたいなのが現れないようにな!」
「地位を望むのはそのためですか。出世は目的ある者が、事を成すために必要とするもの……それ自体が目的であるお前は、着眼点がおかしいんですよ!」
「まだ俺をそう言うか、アクス。俺のことを、嘗めていやがるなぁあああッ」
 とっさ、アクスは危機を感じ、眼を見開いた。
 ファルシオンの怒り狂う形相も脅威には違いなかったけれど、それよりもなお恐ろしいのは、視界に流れ込んで来るリタの存在だ。
 かなり距離を隔ててはいるものの、リタは球状の不可視の障壁に雷を纏わせ、ゆらりとこちらに近づいてきていた。こすり合わせる右の人差し指と親指から、パチパチと放電が音を立てている。
「――結晶体か?」
 アクスの表情の変化を読み解いたファルシオンは、リタのほうを見る。
 幼子は白目から未だに感涙を流しており、その様子は神々しくありながらも、どこか儚くも思われた。
「お前は命を模倣した、ただの概念。泣き顔を眺めようとも、楽しくはないな」
「模倣? この場でほかに誰が泣いているというんだ。あの子には感情がある」
「いるじゃあないか、あそこに。汚らわしい泣き顔を浮かべている奴が」
 冷静さをとり戻しだしているらしいファルシオンは、リタよりもさらに後方、市街ゲート補修整備路を梯子を使って登って来たのだろう、女性へと指を差す。
 相手は濡らした両眼を怪しく煌めかせて、迷った様子はなく、端からふたりの方角に向けて駆けていた。
「ロレーヌ!?」
「頭の悪いガキだ。進んで危険に飛び込もうとしてやがる」
 アクスは彼女の姿を目にして、嫌な予感が頭をかすめる。
 ロレーヌは胸の奥に熱いものを秘めている女性だ。特に幼馴染にかかわりあることとなったら、その熱量は爆発的に増大する。
 今のロレーヌは、きっとファルシオンに一矢報いることしか心にないはずだ。
 手には何も凶器は持っていないが……自己を犠牲としてでも、ファルシオンにフレイルと同等の苦しみを贈ることを決意していることだろう。
「いけません、ロレーヌ! こちらに来ては……――!」
 大声で警告するのと重なるように、空中のリタは雷光を右手に集中させた。
 球状の障壁。その前方が開かれて、リタは指先を突き出してくる。
 組み合うこちらを呑み込もうとする電撃が、一点に的を絞り、放出される。
「………………ッ!!」
 アクスとファルシオンは即座に飛びすさって、受け身はとれなかったけれど、なんとかそれを避けた。アルシエロの上空まで湾曲した電撃を見送って、両者はリタと目を合わせる。
 攻撃のためにまた雷光を右手へと溜め込み、攻撃対象の出方をうかがうように幼子は小さく指先を動かしている。
 ……だが、幼子はあらゆる気配に敏感であるらしく、不意に後ろを振り返り、地上に視線を落とした。蟻のような大きさのふたつの黒い点が、地を蹴りつけ、そばまでやってきているようだ。


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