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作品名:★Freshness(フレッシュネス)★ 作者:鈴木翔太

第47回 47


 治療班と作戦続行班に部隊を二分したリジェナは、飛翔艇内にある操舵室より地方都市アルシエロを見つめ、許可もなく別行動に奔ったファルシオンに憤懣をたぎらせていた。
 部下が手柄を求め、褒賞と昇格に邁進する姿勢を露わにすることは何度となくあったことだが、こうもあからさまな規律違反を犯されたことは今までにない。
 結晶体捕獲作戦は、その重要性から破格の褒賞が期待される任務。それに目をくらませて〈エクスキャリバー〉を出しぬこうと企んだとするなら、リジェナは隊長権限を以て、厳しく相手を罰する必要がある。
「各員、結晶体の捕獲および従牙の鎮圧を最優先とせよ。ファルシオンの拘束はそのあとでいい」
 リジェナが指示を下せば、隊士たちは装備を整えて返事をする。
 部下の声を耳朶に、正面に向き直ると、突如として地方都市に映写されている青空の立体映像が、動作不良を起こしたらしく消え失せた。街全体の電力までも落とされたのか、暗闇のなかに浮かびあがる謎の発光物だけが、異様な雰囲気であたりを照らしている。
「なんだ、アレは? ターゲットを捕捉しろ」
「了解しました、隊長」
 こちらに応え、隊士は飛翔艇の索敵機能(さくてききのう)を発動させる。
 画面上のターゲットポインタが捉えた相手の映像を拡大させ、容姿を解析し、その身に宿る得体の知れないエネルギーの数値を映し出す。
「隊長、アレは子供です! 子供が宙に浮いています!」
「子供、だと?」
 画面へと二歩進み出たリジェナは、雷光を纏う幼子の姿に赤い瞳を揺らした。
 瞳に捉えた幼子に、南方支部のやり取りで見た結晶体の姿が呼び起こされる。結晶体からは、明らかなこちらへの敵意が感じられた。
 どのような経緯があったのかはわからないが、感情のままに暴走しているのだということだけは、解像度の高い映像から読みとれる。
 結晶体は、全世界の動力を賄えるだけの莫大なるエネルギーを秘めた存在だ。その力が人類に牙を剥くとなれば、これほど恐ろしいことはない。
「! 面舵をきれ! ヤツが攻撃してくる!」
「!?」
 結晶体の右手に雷光が集束されていく様子を目に、声を張りあげる。
 戸惑う隊士を椅子から引きはがすと、操舵を両手で勢いよく右回しにきった。
 一直線に伸びる電撃を避け、飛翔艇は船体を傾けつつ、街にたどり着くための前進を続ける。
 舵を振りまわし、防壁と一体となっている市街ゲートを通過。飛翔艇の真下に浮遊している結晶を睨んで、舟艇に備えた迎撃用噴進弾を発射する。ロックオンされている噴進弾は白煙を放って、結晶体であるリタを四方から襲った――が。
「…………!」
 リタが右の腕を振りあげると、幼子を包むように雷光がほとばしり、噴進弾は何かに阻まれるように無残に破裂する。
 幾重もの陶器が砕け散るような音がして、白煙が晴れだす頃には、リジェナは相手の行った防御策が理解できた。
 不可視の障壁を自らのまわりに重ねがけし、無傷で攻撃をやり過ごしたのだ。リタの眼前にある、わずかにひび割れの入った景色がその証明である。
「……ッ!!」
 リタは右手を動かし、不可視の障壁をガラスに熱を加えるように変化させる。
 巨大な氷塊のような突起と化したそれらに雷をまとわせ、今しがたの噴進弾に倣うように、リタは突起物を飛翔艇に解き放つ。
 操舵室をめがけて撃ち出された突起物は、風防を破壊してリジェナたち隊士を強襲。身をかわさなくてはならなくなった自分は、その場から伏せ、舟艇は制御を失う。急降下する飛翔艇は、六番街の民家を続けざま巻き込みながら、地面に墜落する。落下の衝撃に隊士たちは舟艇内に倒れ込んだが、自らで起きあがり、得物を手に取った。
「お前たち、動けるな……?」
「はい。活動に支障はありません」
 振動刃サーベルを杖がわりに体勢を整えたリジェナは、隊士たちの声に頷く。
 打ちつけた左膝は内出血を起こしたようだが、こんなもの負傷には入らない。
「ファルシオンは懲罰房に叩き込んでやろう。適性試験からやり直させてやる」
 少々私情のはさまれた隊長命令を決定して、起き上りざまに歩き出そうとし、あわや膝をつきそうになるところを、両脇から部下に支えられる。
「ええい、私にかまうな。壊滅した民家に市民がいないか、早急に確認しろ!」
「おっと、その必要はねぇぜ。一般市民のほとんどは三番街に集められている」
 歩道にめり込むような恰好になっている飛翔艇。その砕かれた風防を見あげ、何者かが自分の言葉に返答した。
 彼が身に着ける服装は、高位の政府機構所属者に支給される上官制服だった。けれど厚手で防御性が期待される代わりに、重量があり機動性に欠ける旧素材の使用されたそれは、現在では機構で扱われていない代物である。
「お前は誰だ。なぜそんな物を着ている?」
 リジェナが問いかければ、相手は眉を下げ、胸元のサングラスに手を伸ばす。
「こうすりゃあわかるか? それとも、カツラでもつけるか」
「カツラ……――!」
 サングラスをかけた相手の容姿に、針鼠のように尖った黒髪を思い起こして、ハッとなる。かつてと見ためが異なったために、彼がダグラス・スパルタンだと気づくのに、やや時間がかかってしまったのだ。
「しっ、失礼しました! 非礼をお詫びします、ダグラス教官!」
「まぁ、そう気にすんな。もう教官でもねぇしな」
 ダグラスは自分に近づきながら、操舵室のメインシステムの破損程度を診る。
「コイツ、まだ飛びそうだな。あとで修理してやろうか。金は取るがよ」
「修理など……! そのようなことを、貴方にさせてしまっては……!」
「仕事だよ、仕事。便利屋にはお得意さんが必要だろ」
「べ……便利屋? では、貴方――」
 操舵室のあちこちを見やるダグラスへと、リジェナは首をかしげる。
 政府機構を退職されたあとで、彼はそうした職務に就いていたのか。
 彼のこれまでの生活に興味を持ちかけた自分の心を、リジェナは首を振るって奥底へと押し流した。再会を喜ぶのは、この状況を打開してからでいい。
 こうしているあいだにも、結晶体は上空を浮遊し続けているのだ。
「ダグラス教官、なぜ貴方がアルシエロに? 住民を三番街に集められたのは、貴方のお考えですか?」
「最初の質問はパスだ。二番目はそのとおり。アルクスから、お前が動いてると聞いてな。ちぃとばかしでも、手を貸してぇと思ったまでよ」
「司令官から――それは、ありがとうございます」
「うぅん? ……台詞と顔が合ってなくねぇか?」
 リジェナは返された言葉に、わずかにダグラスから視線を逸らしていた。
 自分はもう一人前の機構員だ。彼の手助けを受け、どうにか任をこなしていた頃とは違う。彼にいつまでも助けられ、その様子を真似ているだけでは、自分は本当の意味での一歩を踏み出しているとは言えないだろう。
「若い奴に手を貸したくなるのは、俺の性分だ。それが仕事だったからな」
「感謝しています。それは、本当です」
「はぁ。……お節介で悪かった。許せってんだよ」
「だから、感謝していると! なんですか、子供を言い含めるみたいに!」
 ダグラスの言い方がどこか癪に障り、彼の右肩に掴みかかる。
 サングラスのなかの夕日を連想させる瞳は、かすかに緩んでいた。
 彼には、新米兵士の時と何も変わらずに思われるのかもしれないが、自分も、これまで機構のため力を尽くしてきたのだ。この期におよび、何人も抱えていた研修生のひとりとして扱われるのは、どうにも受け入れがたいものがある。
「そんなヒートアップするなよ。お前は泣き虫のくせに、度胸はあるんだよな」
「放っておいてください。今はもう、泣き虫じゃありません」
「らしいわな。けど、泣き虫だからこそ、俺はお前が気に入ってたんだぜ?」
「えっ、それはどうも…………というか、過去形ですか」
「ああ、今は今で気に入ってる奴がいる。こいつがまた面白くってよ」
 ダグラスはニヤリとした顔で、楽しそうに口にする。
 つくづく、若者を指導して見守ることが好きなのだな、とリジェナは思った。
 でなくてどうして、わざわざ疲れるだけの面倒事を率先して解決しようなどとするものか。
「それはそれとしてだ。怪我ないか、リジェナ」
「! 平気です。心配していただくようなものは、何も」
 毛がないのは貴方のほうでしょう。と内心悪態を着きながら、いきなり真剣な口調になったダグラスに、リジェナはすぐに言い返した。
 突拍子もなく、こちらを労わるようなことを言うのはやめてほしい。
 心の準備ができていないので、赤面してしまわないかと心配になる。
「っ! お前たち、何を見ている!!」
「い、いえ、我々は何も…………」
 顔をそむけた視線の先の隊士たちが、目をまるくしてこちらを見ているので、リジェナは早々に怒声を放った。一喝された彼らは、反射的に背筋を伸ばす。
「お前たちは早く三番街に向かえ! 務めを果たさんか、馬鹿者!」
「はっ! 行って参ります!」
 どやされるまま出動する彼らは、去り際にリジェナとダグラス両名に一礼し、足早に三番街・ショッピングモールに向かった。
 鼻を鳴らし隊士を見送ったリジェナは、飛翔艇を飛び下りて地に降り立つと、結晶体に振動刃サーベルの切っ先を向けて口を開く。
「結晶体め。これ以上、好きにはさせない」
「あいつはリタだ。リジェナ」
 遅れて飛び降りたダグラスは、電磁ロッドで肩を叩きながらしゃべる。
「今のお気に入りが、あいつをそう呼んでいた。友達なんだそうだ」
「友達? あれは疑似生命ですよ?」
 模倣と反射行動を繰り返すだけの自由意思のない存在を、友人などと呼ぶのは無理がある。自分はそう思ったが、ダグラスは微笑むと楽しそうな口ぶりで、
「まぁ、そうなんだけどよ。そいつのもっと面白いところはな――」
 と、この事件の大元となっている人物の話題を語り聞かせだした。
 リジェナは小走りをしながら、背を追いかけてくる彼の言葉を聞いていた。
 子供の頃から変わらない、鮮度≠フ申し子の話を。


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