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作品名:★Freshness(フレッシュネス)★ 作者:鈴木翔太

第41回 41


 先頭を走るフレイルは、背後についてくるロレーヌとリタを振り返り、両足を動かすままにしゃべった。
「二人とも、ゲートを越えても走り続けるぞ。苦しくても我慢しろよ!」
「わかってるわ。まかせて」
 ロレーヌが言葉を返すと、その胸元でリタも頷く。
 それぞれの意志を確認したフレイルは、己自身もふたりに大きく頷き、通りの角を曲がって交差点にまでたどり着いた。通過しようとしているその地点では、何人もの住民とドロイドが駆け足で歩を進めている。みんな目的は一緒らしく、進んで行く方向は誰しも同じである。
 この人たち、どこ行へくんだ?
 フレイルは直感的に、住民たちは自宅でじっとしているほうが安全なのではと思ったが、あまりに人数が多いので、それを相手方に言うのはためらわれた。
 なかにはお年寄りや子供の姿も見える。何かあったときには大勢の人と一緒のほうが、身も心も休まるという考えがあってのことなのだろう。
 言いだしたのは誰か知らないけど、ナイスな判断だ。
 そう、フレイルが納得して親指を立てた、その直後。
 上空から自分に向かって、黒い影が覆いかぶさる。それは空中に停滞している機体のもので、ロレーヌは機体に見られた刻印を、即座にこちらへ伝えた。
「フレイル、見て。政府機構のマークよ」
「機構のメカか。指示を出したのも、きっと乗っている奴だな」
 フレイルはここから見えない乗組員に向けて、両腕を振るって合図をする。
 乗組員に降りて来てもらえれば、リタを機構支部で保護するのも楽になる。
「そこの人ー、降りて来てくれよ。力を借りたいんだ!」
 エアキャリへと声を張ってみても、上から言葉は返されない。
 機体のほうは何か作業をしているらしく、カチャカチャ機械音がするだけだ。
「なんで、応えてくれないんだろう?」
 ロレーヌも不可解な表情を浮かべて、フレイルの顔を見る。
 理由はまるで思い当たらないが、話しかけているというのに無視をされるのは気分が悪かった。
「なぁ、機構の人! 小さい子が困ってるんだよ、大人なら助けろって!」
 フレイルはエアキャリアに人差し指を向けて、命令口調で声を飛ばす。
 すると乗組員は組みあがった機器を手に、こちらを見下ろして姿を見せる。
 乗組員が手にしているものは、レーザーボールを発射するための光線圧縮砲。しかも相手は何を思ったか、その狙いを自分に向けて発砲したのだ!
「――!?」
 迫り来る高熱の砲弾に、フレイルの身体は硬直する。
 そもそも、乗組員が自分に対して発砲したこと自体が――その明確な疑問が、反応を遅らせてしまっていたのだ。
 ロレーヌは目の前で起きたこの出来事に、幼馴染を救わなくてはと感じたが、両腕に抱えるリタの存在に、やはり動揺が生じて動くことができなかった。
「フレェェイルッ!」
 窮地に追い込まれたフレイルへと、直線上から叫び声を放ったのは誰あろう、自走機関を走らせるアクス・ハルベルト!
 アクスはエンジンを吹かせて全速力で駆け抜け、自身が直撃を受けるリスクをものともせず、伸ばした右腕でフレイルを掴んだ。速度を利用し事務所の所長を持ち運んだアクスは、自走機関を旋回させ、無理やり機体を停止させる。
 ロレーヌとリタは飛び込んできた機体から身をかわして、三人がいた地点には強い衝撃と破壊音、そして巨大な弾痕が。
「アクスっ!」
 結婚式を迎えた花嫁のような、両腕に抱かれるのにちかい状態で、フレイルは助けてくれた友の名前を呼ぶ。――機体の乗組員は、わずかにこれに反応した。
 アクスは静かにフレイルを地面に降ろし、
「怪我は?」
 と、短く尋ねる。
 自分が問題ないと応えると、アクスは座席に腰かけたまま嘆息した。
「ありがとな。さっきのは、どうあっても召されてた」
 九死に一生を得たばかりだが、フレイルは不謹慎に胸元で両腕を交差させて、両目を瞑ってみせる。この態度にアクスは人差し指を立てて、上体を乗り出して言葉をつむいだ。
「縁起でもない真似はやめてください。まだ借しを返してもらってないんです。死ぬのであれば、それを僕へ返してからですからね」
「以後、気をつけまーす……へへへっ」
 友人から一方的な口約束をとりつけられながら、フレイルは両手を首の後ろにまわして微笑む。
 そんなこちらに視線を向けていたロレーヌは、片腕で、自分の右手から地面に転がった電磁ロッドを拾いあげてくれた。ロレーヌが投げて寄こす電磁ロッドを代わりに受け取ったアクスは、エアキャリアを見あげて口を動かす。
「――で? あそこにいるおバカさんは、何方です?」
 怒りの込められた色男の発言に、制服のフードを目深にかぶっていた乗組員は光線圧縮砲の砲口を下げると、依然とした高い位置から声を発する。
「お前、アクスというのか。姓はなんというんだ?」
「礼儀知らずにもほどがあります。貴方が口にすべきは、そんな言葉ですか?」
 落差と距離を隔てて、アクスは乗組員を問い詰めた。
 相手は見おとしそうな動作で、小さく歯ぎしりする。
 それから片手で口元を覆うようにしてから、急に何度も首を縦に振りだした。
「そうだ……そういう野郎だったよ、お前。いかにもってふうな態度でさぁ」
「失礼ですが、義務教育は終えられていますか? 話が通じていませんが?」
 アクスがさらに怒声を飛ばすと、乗組員は乱暴に光線圧縮砲をエアキャリアの手すりに立てかけ、フードを取りさった。次いで帯刀している振動刃サーベルを抜き取り、構えをとりながら、アクスへと語気を荒らげて語りかけ始める。
「驕るなよ! 教育≠ゥら逃げ出したのはお前だろ、アクス・ハルベルト!」
「僕をご存知でしたか。もしや家の人間? ――いいえ、ありえませんね」
「当然だ! ありえるわきゃねぇだろ。お前に家なんてないんだからな!」
 高みから耳朶を打った言葉に、フレイルとロレーヌは思わず、アクスの表情をうかがってしまった。彼からそうした話をされたことは一度もない。
 ふたりの視線にアクスはおどけて肩をすくめ、得意の意地の悪い顔をする。
 近しい人間だからといって――いいや、近しいからこそ、話すべきではないと判断する話題がある。彼は、こちらに不要な事柄を語るつもりはなかったのだ。
「そんなことまで知っていますか。そして、そんな言動をとる自分の知り合いとなると――」
 アクスはその場を五歩ほど歩き、顎に手をやって考える仕草をする。
 これまでの記憶を奥底から洗いだし、相手に見合う人物を探り出す。
「ファルシオン。子供の頃に、ロバート・ファルシオンという人物と知り合っていますが、貴方、彼によく似ていますよ」
 眼に込めた怒りを逆巻かせ、彼は相手を鋭く見つめた。
 ファルシオンは、正しい解答を声音にしたアクスにいびつに笑いかけるなり、エアキャリアを地上近くで滑走させて、彼を一気に高みまで引きあげる。
 機体の猛突進をもろに受けることになったアクスは、この衝撃に言葉もなく、エアキャリアの上昇に付き合わされる形となった。
「大当たりだな、アクス? このお利口さんがッ!」
 市街を囲んでいる市街ゲートと同等の高さまで浮きあがったファルシオンは、アクスに掴みかかりながらしゃべり続ける。
「お前は今まで、どんな生活をしていた。答えてみろ、ドロップアウト野郎!」
 執念か、憎悪か。揺らめき立つ感情を剥き出しにし、政府機構に連なる男は、掴んでいる民間人の頭部を機体へと叩きつけた。激しい痛みに、アクスは意識が朦朧となってしまう。手すりを抱え込んだ状態となり、その場にとどまるだけで精いっぱいの様子だ。
「お前と俺、どちらが勝者で敗者なのか。世間に問えば答えは決まっている」
「うぐ……ぅう……」
 ファルシオンは振動刃サーベルを切っ先が真下を向くように構えて、アクスの右腕へと狙いをつけた。右腕がこのまま斬り落とされてしまったら、どうなってしまうことか。子供にだって想像がつく。
「『ハンプティ・ダンプティ。塀の上に座っていた』」
「ファルシオン……!」
 アクスはファルシオンのマザーグースからの引用に、青ざめた表情になる。
 この変化に相手は下卑た微笑みを浮かべ、刃を右腕に突き立てにかかった。
「『勢いよく落っこちた』! 『王と家来が力を合わせても一巻の終わりさ』!」
「背後から来ています! 貴方がさっき狙いをつけたものが!」
 アクスの必死の叫びに、ファルシオンは動きを止めた。
 聞こえた言葉に背後を振り返ると、鋭い爪を伸び立たせた従牙が迫る。
 ファルシオンが光線圧縮砲で砲撃しようとしたのは、驚異的な速度で地方都市アルシエロまで到達し、交差点にまで行き着いたミシルであったのだ。ミシルは砲撃でリタに近づくことが難しいと判じ、街を走りぬけ、家から家を飛び移り、エアキャリアに届くまでの高さを目指したのである。
《我が君に害を為す愚か者ッ! 誅罰をくれてやるわ!!》
「ケダモノが……! お前から地面にキスさせてやるぞ!」
 振動刃サーベルと鋭利な爪がぶつかり、エアキャリアは大きく揺さぶられる。
 もとより、ひとり乗りの機体に、三つぶんもの重みがのしかかっているのだ。このままでは、機体は散らばもろともに墜落する。
 混戦の様相を強めるエアキャリアに、地上にいるフレイルは歯がゆい気持ちになっていた。ファルシオンというらしい男とアクスとのあいだに、いったい何があったのかは知らない。だがなんにしても、相手からアクスに注がれる執着心はかなりのものである。野放しにしておけば、あいつは友人を殺害しかねない。
「アクス、思いきって飛んでみろ。俺が受ける! 必ずだ!」
 フレイルは両腕を伸ばすようにして、上空に大声を張った。
 傾きだしたエアキャリアは、徐々に高度を下げながら空中をさまよっている。決断が遅れれば、機体はやがて市街ゲートに激突してしまうだろう。


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