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作品名:★Freshness(フレッシュネス)★ 作者:鈴木翔太

第40回 40


「グルナード。お前、よーく見たら耳の数がおかしいみてぇだな。落し物なら、七百ゼニーからだぜ?」
《くだらんことを抜かすなッ! キサマとあろう者が、なぜ阿呆と共にいる!》
 荒れ狂い猛威を振るうグルナードの連撃を、ダグラスは的確に見切り、防ぐ。
 得物を揮えば揮うほどに、身体に政府機構時代の感覚が戻ってくるようだ。
 アクスはあいつらを追ったか、やっぱ。手間がかからなくていい。
 片目で室内を把握したダグラスは、戦闘をしながら頭をはたらかせる。
 このまま時間を稼ぐにしたって、徒歩ではフレイルとロレーヌが結晶体を送り届けるまでに、おそろしいまでに時間がかかってしまう。
 それに従牙は、獣たちを統率する将だ。こいつらが動くとすれば、それは大群であるはずなのだ。敵方の軍勢をかき分け、南方支部にまで無事たどり着こうとするのなら、自走機関の機動力はどうあっても必要になる。
「ダグラス、ダグラス、やっちゃって〜〜。あたしはお眠よ、早くしろ〜〜」
「黙ってろ! こっちは手いっぱいなんだよ!!」
 ナタルの気のない声援に、衝動にまかせて怒声を張った。
 飲み物を備え、まるめたファッション誌をメガホン代わりにしている彼女は、左手のネイルアートを机の角にこすりつけて削っている。
「暇なら彼氏どもに電話しろ!! 市民をショッピングモールまで集めるんだ。一ヶ所にいたほうが後々の対処が楽になる」
「りょーかい。七人いるから、一番街から六番街までを完全カバー……あり? ひとり余るわ。どうすべ?」
「多いんなら、そのほうが良くねぇか!?」
「その言葉、あたしの台詞とかぶってね?」
 グルナードの相手よりも、よほどに体力を消耗するナタルとの会話に、自分は心底辟易していた。
 けれど、こちらの煩わしさなど一向に意に介さず、ナタルはやたらポケットのたくさんある衣服から、携帯端末を続けざまに取り出して宙に投げる。
 彼女は華麗に回転するそれらを追うように跳躍、見事な捻り込みから鮮やかに両手を動かし、着地までにすべての携帯端末へと電話番号を打ちこみ終えると、右脚でひとまとめにするように弧を描く蹴りを放った。
 机の端に整列した携帯端末は、どれもテレビ電話としての機能を作動させて、片膝をつくように降り立ったナタルの姿を相手方に映し出している。
「Boys! 寂しくって電話しちゃったんだけど、今、時間あるかなぁ?」
 ナタルが両手を組んで身体を揺らしながら、甘ったるい声でしゃべると、
「もちろんですよ、ウォーリアさん」だとか、「こっちも会えなくって寂しいよ」という返事がすぐによこされる。彼女の魅了(チャーム)は効果絶大である。
「良かったぁ。みんな、やさしいから好きよ。ラーブ♪」
「ナータール! 無駄話はいいんだ、早くしろよッ!!」
 彼女があざとく彼氏たちに媚を売っているので、ダグラスは急かして叫んだ。
 流れ込んで来る音声に、電話越しの男たちは疑問を口にする。
「ウォーリアさん、今のは?」
「まさか八番目か?」
「声の感じオッサンだったぜ? さすがにないだろ?」
 ダグラスが「ほっとけ」と思っていると、ナタルは得意の舌先三寸を発揮し、彼氏たちに返答した。こういう頭の回転はずば抜けて早い女性だ。
「今のは――あたしのお義父さんよ、お義父さん。電話料金を気にしてるの」
「なんだとナタル? お前、いいかげんなことを……!」
「怒鳴らないでよ、お義父さん。あたしが養女だから気にくわないの?」
「妙に設定凝ってるな、おい!!」
 前触れなく幕を開けたナタル劇場にツッコミをいれつつ、自分はグルナードを押し返した。視線を合わせたままゆっくりとたがいに三歩動いて、再三、得物を噛み合わせる。
 すこぶる真剣に戦っても、その合間に「お義父さん、更年期ですか?」とか、「俺たちに娘さんをください」とか、脱力しそうな声音が聴覚を刺激してくる。
「お義父さんが冷たくあたるのぉ。みんな、あたしを慰めて〜〜」
「「「「「「「元気出して、俺たちがいるぜ」」」」」」」
 ――それどころか、巧みに自分は悪役にされてしまったらしい、とダグラスは眉間に青筋を立てる。まったく疑う様子が見られない七の彼氏たちは、ナタルにマインドコントロールを受けているのか、と疑いたくなる同調ぐあいだ。
「寂しくってつらいから、みんなで騒ごっかぁ。三番街のショッピングモールに街の人たち全員集めて、ビンゴなんかして☆」
「「「「「「「いいね、それ」」」」」」」
「いいでしょ? それじゃあ、みんな。協力してくれるかな?」
「「「「「「「いいともー!」」」」」」」
 ナタルがマイクを差し出す仕草をしたなら、彼氏たちはみな、電話を切った。
 彼らはすぐに人々に声をかけ、あっという間に、三番街ショッピングモールに集合させてくれるだろう。七人全員が地方都市アルシエロにおいて影響力の高いボンボンであることが、思わぬところで役に立ちそうだ。
「……あ〜〜、しんど。あいつら、女に夢見すぎだべ」
 態度の切り替え方の激しいナタルは、通話が終わったとなるや、ハンドバッグから化粧道具を取り出し、メイクアップを始める。こちらには名称のわからない道具ばかりであったが、彼女は目元に線を引いたり、何かで顔面を叩いたりしているようである。鍛えられた戦士と体躯のいい獣が激闘を繰り広げているなか、かき乱されない彼女の平常心はたいしたものだ。
「げっ、頬紅がなくなる。片っぽだけ塗っちゃったじゃん、どうしてくれんの」
 誰への文句なのかは知らないが、ナタルは不満げに言ってから、ティッシュと思しきもので左頬を拭いた。そして、パチリと各種化粧道具をバッグにしまい、伸びをしてから事務所よりショッピングモールに向かうべく、よそ行きの革靴に履き替える。
「ダグラスぅ? 遊んでないで、早く倒しなよ」
「誰が遊んでんだよ、誰が!」
「よだれ? あんた、何を言ってんの?」
「そんなこと言ってね…………おいっ!」
 自分がナタルのほうを片目で見やれば、彼女はもう外へと歩きだしていた。
 右腕でバッグを振りまわし、左手であくびを抑えて。
「……やっ――」
《…………?》
「やってられっかぁあああああッッ!!」
 構えた電磁ロッドを力まかせに振りあげ、勢いよく床に叩きつける。
 グルナードは一瞬早く攻撃をかわして、そちらも叫喚を張りあげた。
 対戦しているほうからしても、この緊張感のない空気は許せるものではない。戦いに趣を求めるグルナードであれば、なおさらである。
《キサマの仲間はどうなっている!? 阿呆ばかりか、この事務所はッッ!?》


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