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作品名:★Freshness(フレッシュネス)★ 作者:鈴木翔太

第3回 3


「たっだいまーっ!」
 交わりようのないふたりの不協和音を引き裂くように、フレイルの元気な声が事務所の玄関から飛び込んできた。
 ダグラスが手にしていた器具を床に置くのとほとんど同時に、扉を開き室内に入ったフレイルとアクスは、ジャンク屋から受け取ってきた購入品をドサッと、ナタルが陣取る長机の前に置いてひと息つく。
「フレイルにアクス、おっか〜〜♪」
 緑色の双眸を見開きながら、彼女は見慣れないジェスチャーをフレイルたちに披露した。最近、ナタルが過去の映像データから入手した、低学年向け情報番組における挨拶の模倣である。
 けれども、そんなことなど知るはずもないフレイルとアクスは、一様に小首をかしげて、彼女の動作の意味を読み取ろうとする。
「軽いノリで返してよ。あたしが恥ずかしい奴みたいになるじゃん」
「え? あ、おう。……おっか〜〜?」
 なぜかテンションを下げたナタルに、フレイルが空気を読んで返事をしてみるものの――
「違うってば! あたしが『おっか〜〜♪』って言っているんだから、あんたのほうは『えっり〜〜♪』って返してよ。考えたらわかりそうなもんでしょ」
 と、今度は理屈のよくわからないダメ出しをされてしまい、フレイルは自らがとるべきであった正しい行動の在処を永遠に見失うこととなった。
「なるほど。『おっか〜〜♪』に対応した返事は、『えっり〜〜♪』なのですね。忘れないうちにメモしておくことにします」
 一連の流れを傍観し終えたアクスはペンを取り出し、言葉のとおりに左手へと行われたやりとりを書き記した。――水性ペンで書いたことを鑑みるに、本気で覚えるつもりは毛頭ないようであるが。
「アホやってねぇで、取ってきたバラ部品を早く寄こしやがれ。昼までに修理しねぇといけねんだろ、このドロイドども」
 副所長の疲れを感じさせる覇気のない怒声に、フレイルは紙袋の中身を机上に並べ立てつつ、気づかれないように右手の電磁ロッドのスイッチを切った。
 こうした様子では、間違ってもロッドからの一撃はないと確信したためだ。
「エレクトリック・フォックス社製の部品群と、一文字財閥ゆかりの工業部品。それとこれが、無名の小会社のやつだ。必要なものは全部そろってると思うぜ」
 さらに小分けのビニール袋に丁寧にまとめられている部品をそれぞれ説明し、フレイルはドロイド――アンドロイドの略称であり、現在も人気の高いスペースオペラ映画での呼び名になぞらえた機械製品の総称である――の構造と格闘するダグラスのそばに移動する。
 ドロイドと部品の規格が合致するかを確かめ、工具箱から器具を掴み取ると、そのままダグラスの作業に加勢し始めた。
「端子の結びは基本的に構造Bに倣う形でいいんだよな?」
「基本はな。エレクトリックのとこのだけは構造Aタイプだぞ」
「? ……今時じゃ珍しいな」
「たぶん、美学の問題だろう。構造基盤を貫きたいんだろうさ」
「変わらない美学か。こいつも鮮度≠セな、気に入ったぜっ」
 フレイルとダグラスがカチャカチャと金属質な物音をさせている様子を見守りながら、ナタルは依然とした態度で手元に用意したスナック菓子に手を伸ばす。
 スナック菓子のパリパリという咀嚼音。そして、工具と修理品による金属音が不思議とリズミカルな戯曲を奏で、作業者の指示に応じ部品を手渡すアクスは、心底その調べを堪能した。
 ――こういった風景が、便利屋Freshnessにとっての日常である。
 一般的な事務所であれば上に立つ所長が従業員を律して然るべきであろうが、ここでは副所長が喝を入れ、従業員のひとりは大いにだらけて、残りのひとりはみんなのやりとりを味わい尽くすかのように楽しむのだ。
 しかし、それでいて各人員に決定的な嫌悪感などはなく、ある程度の協調性が保たれているあたり、事務所の企業形態としてはなんだかんだ、まとまっていると言えなくもないのだけれど……。


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