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作品名:★Freshness(フレッシュネス)★ 作者:鈴木翔太

第25回 25


 ナタルは自らの特異な才能を、それまで誰かに話したことは一度もなかった。それを初めて大々的に話したのは、スクール小等部のときだ。生徒らのあいだで特技についての語らいが盛りあがり、つい口を滑らせてしまったのである。
 ところが、生徒のなかにはこれをからかい、バカにする者がおり、
『ひどく目立ちたがり屋』
『つまらない見栄っ張り』
『くだらないホラ吹き』
 などと言った悪口を次々と言い放って、尾を引くことになったこの事柄から、しだいにナタルはいじめられるようになっていったのだ。
 ナタルは内気で引っ込み思案なうえ、見た目も地味な存在感の薄い子だった。
 まわりの生徒や教師はいじめから目を瞑りやり過ごすし、また、忙しい両親に相談するといったこともできなかった少女は、ジェンダーを問わず繰り返される嫌がらせに耐えしのび、傷ついた心を表に出さないように努力した。
 いずれは誰かが、このひどい生活から自分を助け出してくれるだろう。そんな乙女チックな願望を抱いていられるうちはまだ良かった。しかし、質の悪いことであるが、いじめっ子というのは優越感を得るために手法を日ごとに悪化させ、被害者の精神をとことん追い詰めてくる。そこに際限などない。
 ――そうした悪夢のような日々が続く、ある日の朝。
 ナタルはいつもとは違った高潔な気分で目を覚ますと、寝起きだとは思えない冴えた頭で今一度、自分自身の能力と失態について考えた。
 それから部屋のカーテンを思いっきり引きちぎると、窓を大きく開け放って、澄んだ空気や早朝の冷気を身体全体に取り込んでいった。
 するとなぜか、胸にあった湿った感情は雲の切れ間に差し込む朝日へと溶け、緑色の瞳には元来の……いや、それ以上の光が宿った。
 この日から少女はまるで雰囲気が変じ、立ち振る舞いには物怖じしない自信、いじめっ子の顔色をうかがっていた眼には強い意志が満ちあふれた。
 さらに、見違えるような行動力までも手にしたナタルが、スクールに登校して最初に向かった場所は、先輩方が勉学に励んでいる上級学級である。
 ナタルは教室に集まりだしている上級生たちに、『お友達になってください』と好印象をもたれるように頼み込んだ。それも無作為ではなく、生まれたときから身につけている霊感から、自分自身にとって利益となる者をきちんと選びぬき、これからの学園生活を安定させるための根回しとして。
 自分は各学級とクラスから同様の手口で目ぼしい人たちに声をかけて、頻繁に交流をとることで、計画的にそれぞれと仲を深めていった。
 教室でいじめっ子と接する時間が減れば、それだけ自分の被害も軽減される。
 クラスおよび学年の人気者と付き合っていれば、遠からず何人も自分に対して手が出せなくなってくる。
 上級生に目をかけられていれば、同級生たちの企てなど怖くもなんともない。しかも、ありがたいことにその上級生が部活などで活躍していたり、スクールに兄弟がいたりした場合、静かなる暮らしを守る防壁は自然と強固となっていく。
 ……ついでに言えば、この画策はナタルに計画以上の進歩をもたらしていた。
 他人から好かれる人物は、大なり小なり努力していることに気づいた自分は、ただそうした人物と付き合うだけでなく、それらをじっくり観察して身につけることにしたのだ。
 これが成し遂げられれば、他人に出会うたびに自己が磨かれ、それだけ利益のある者たちから数多くのものを受け取ることが可能になる。
 現在の己自身を作り上げたと言っていい、この考えが脳裏に浮かんでからは、ナタルはそれまで地味だった身なりを一新し、より己自身のあり方を強化した。
 楽をするために努力する――もはや教室の陰で肩を落とした少女の姿はない。
 ナタル・ウォーリアは自分らしい現実との向き合い方を、たったの八歳にして習得したのである。


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