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作品名:★Freshness(フレッシュネス)★ 作者:鈴木翔太

第19回 19


「うおおおおおおぁああっっ!!」
 戦士たちの気迫には遠くおよばない叫びが、戦場から幾許かの距離を隔てて、どうにも情けなく響いていた。
 猛烈なスピードで前方へと向かって突っ込んでいく自走機関。その運転席から振り落とされないように必死にしがみついている鮮度≠フ申し子は、容赦なくニルゴア森林の獣道に揺さぶられ、涙目になりながら声を発している。
 遊園施設のアトラクションにおいても、絶叫系だけは小さい頃から避けてきたフレイルである。涙で歪む視界のなか、不規則な揺れと衝撃に耐えて正気を保つすべは、ともかく声を張りあげて自分の在処を示す以外には何もなかった。
「にぎゃああああっ! ぬほぁあああっっ!!」
 ……ちなみに、この自走機関の止め方はブレーキを踏み、停止用のスイッチを十秒間ほど押し込むだけの簡単な操作なのだが、フレイルにはそうした基本知識すら持ち合わせがなかった。あくまでも、自分が傾倒をしているのは大空を翔る飛翔艇であり、それ以外の機械類や乗物には興味こそあるものの、仕事に関係がなければ、さしたる下調べを行ってこなかったからだ。
「うぉわッ!」
 隆起してできたものだろう丘の上から、緩まることを知らないスピードのまま放り出されたフレイルは、とっさに腕で頭部を守りながら、野草の生い茂る地面に叩きつけられる。野草がクッションとなり激突の痛みを多少は和らげてくれたようだが、それでも身体の内側へ伝わる警報レベルは鮮やかなレッド。
 少しばかり、ここで休んだほうが良さそうだ。
 あっ、そうだ。自走機関はどうなった?
 首だけを動かし、自分よりも痛ましく地面に飛び込んだ自走機関を見やると、近未来的な機能美と造形美を兼ね備えた機体の前方部分がグニャリと曲げられ、まるで抽象画から引っ張り出されたオブジェのような有様と化していていた。
「……嘘だろ」
 ちょっと借りるだけのつもりだったのに、あの破損では修理に出さなくては。いいや、もしかしたら買い替えなくてはいけない致命的なダメージを負っている可能性もある。
「まいったな。自走機関っていくらするんだっけ? アレ、新型だよな?」
 フレイルは上体を起こすと、痛む頭を軽くさすり、副所長が定期購入しているメカニック専門雑誌の内容を思い返す。
 そして、ポケットマネーから最新機の値段を差し引いた余りを計算しようと、地面に計算式を指で書き記し始めた。在学中はあまり得意とは言えなかったが、ナタルとアクスからの手解きを受けたことで、今では数学がいちばんの得意科目となっているのだ。
 そういえば、数学を習っているときも、幼馴染は不機嫌そうな顔をしていた。
 計算から求められた値を地に書き出しつつ、フレイルはそうした事と次第を、脳内に浮かびあがらせる。
 確か――事務所における仕事の関係上、賃金に直結する知識はなにより重要だという話になり、ナタルが初めに数学の参考書を持ってきたのだ。
 だけれど、ナタルは他人に公式を教えるのがあまり上手とはいえず、見かねたアクスが助けに入る形で授業は展開していった。ナタルとアクスが手を組むと、苦手意識のあった数学が途端にわかりやすく、楽しい娯楽となったことは未だに不思議な点である。ナタルが理解を深めるための例えを口に出し、アクスが道理となる理屈を詳らかに説明すると、頭脳に喜びの刺激信号が送られてくるのだ。
 そんなふうにふたりに数学をみてもらって数週間――前触れもなくロレーヌが『わたしも数学を教えたい』と言ってきた。
 当然、彼女の申し出は嬉しいものだった。ロレーヌの授業が下手であったとは思わないし、疑うまでもなく、スクールの講師たちよりもずっと呑み込みやすい勉強法を授けてくれた。
 しかし、ナタルとアクスから受けるような楽しさや喜ばしさはなかったのだ。
 結局、翌日にフレイルが『二人から教えを受ける』と口にすると、彼女はただ静かに『そう……』とだけ口にして、三人のやりとりを眺めていた。
「なんか、俺ってあいつに冷たいのかな?」
 過去、というほど日数の経っていない記憶に、フレイルは誰に問うでもなく、両腕を組んで小首をかしげる。その時々には考えいたらないものだが、客観的に振り返ると、ロレーヌのやさしさを無下にしている思い出の数量はとても多い。仮に自分が彼女と同じ立場であったなら、こんな友達甲斐のない者とはとっくに縁を切っている。
 ……いや、ロレーヌだけではない。自分はまわりの仲間から過分に支えられているのだ。みんなの厚意に対して、何も返さずにいてはいけない。
「うっし、いっそのこと、貯金は全部崩そう! 明日にでも事務所で、パーッと盛大な感謝祭を開いてやるっ!」
 宣言とともに立ちあがったフレイルは、ニルゴア森林へと足を向けようとした当初の目的を綺麗さっぱり忘れ、事務所の飾りつけや、ご馳走を用意する算段を頭のなかで組み立てる。
 ムクムクと心に思い立った、催しに対する鮮度=Bその概念に抱き込まれた自分の頭のなかはそのことだけでいっぱいだ。すっかり脳裏で盛りあがっているフレイルは、そのまま自走機関を引きずって街に戻ろうとした。
「……ん? おおッ!?」
 しかし、こちらを呼び止めるように金色の煌めきが、そのきらきらしい威光を放った。物思いに耽るフレイルのそばを囲い込むように、いつの間にやら黄金の残光が、空中に浮遊していたのだ。
「そうだ、コレコレ! こいつの正体を見にきたんだ。ただ転ぶだけじゃなく、ちゃんと旨味も手に入れなくっちゃな!」
 両眼を輝かせたフレイルは、幼少期に両親から聞かされたおとぎ話の主人公になった気分で、邂逅するモノへの期待を胸に両足を動かす。
 煌めきの出所には、いったい、どのような光景が待っているのか。
 麗しの姫君か。それとも恐ろしい怪物か。
 ある程度の分別を身に着け、夢物語からは遠ざかったつもりでいた自分だが、それでも、ロマンやファンタジーに胸を焦がす冒険心は、まだまだ健在だった。
 我が身を招き寄せる煌めきにあれよあれよと吸い込まれ、フレイルは勇敢さを絵に描いた足取りで進んで行く。
 これから目にするもの、耳にするもの。どちらも、誰に信じてもらえなくてもかまわない。ただ、この双眸と胸に刻まれることこそが真実。魔法であっても、奇術であっても、それだけは同様だ。
「カメラを用意すれば良かったかな。いや、今夜のうちに絵日記にでも書けば、じゅうぶんだよな」


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