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作品名:★Freshness(フレッシュネス)★ 作者:鈴木翔太

第18回 18


《――! ……ガルルッ……!》
 言葉を投げかけてくる隊士の姿に、かつて牙と爪で息の根を止めることが可能であったにもかかわらず見逃した娘の存在を、ミシルは脳裏に呼び覚ました。
 その娘は前線にありながらまだ若く、初陣であろうことが容易に推測できる、どこか戦場に不似合いな少女であった。
 入り乱れた混沌とした局面において、彼女は悲涙を流し、双方の所業を嘆き、異議を唱え始めたのだ。
『こんな戦いに意味はありません! 多くの者が無駄に命を落とすだけです!』
 傷つき、膝をつき、喉の奥から力の限りに叫ぶ娘は、ミシルにとっては手頃な獲物であったはずだが、その場で娘を八つ裂きにするのはなぜか抵抗があった。
 何者も激情に支配される戦況で、ひとり生命の尊さと争いの無為さを語る娘。
 それなる相手を前にしてミシルは、その稀有なるあり方に魅せられていた。
 闘争のなかで薄れていく、当前の心を、飾り立てることなく真っ正直に訴える姿には、立場や種族の違いを超える美しさがあった。
 奇妙な言い方をすれば、事もあろうにミシルは、娘に好意を抱いたのである。それは前述した尊い美しさのせいなのか、はたまた、初陣の自らに女隊士の姿を重ねてのことだったのか。
 どちらにしても現在ミシルが抱える問題は、相まみえる女隊士が、記憶に宿る少女の面影を残している点。そのひとつに尽きた。
《よもや、あの娘がこのように凛々しい戦士になるとは……。人間の成長とは、計り知れぬものだ》
 できることならば、争いとは無縁に生きてほしかった。
 もはや叶わないそうした想いを乗せて、ミシルはリジェナに対し、親のような心情で言葉を贈る。
 おもんばかるに、心優しい娘が政府機構でこのような職務に就いているのは、当の本人にとってどうしても譲れない、何かしらの誓いがあるからなのだろう。
《さりとてワタシの感情よりも、我が君の存在のほうがはるかに重い。皆の信を預かる者として、下せる判断はコレだけだッ!》
 ミシルは澄みわたる空を見あげると、総身の活力を込め、ニルゴア森林全体に響き渡るような咆哮をあげた。
 勇ましい響きに、木偶人形になっていた鳥獣たちは一様に吼え返して、遺跡の最奥に向けて進軍を開始する。隊列を成す敵兵たちをすべて無視した行動には、一切の躊躇がない。
「これは……!」
 想いが通じたのかと、一時リジェナは顔色を明るくした。
 けれど、その表情はほどなく硬く引き締められる。
 未だこの場に残る従牙が、ただならぬ闘気をまとい、リジェナとファルシオンを凝視していたためだ。
「はっ、実に面白い。将の優劣でこの件を締め括ろうとは。愉快な提案ですな、リジェナ隊長?」
「軽口を慎め、きかん坊。相手の譲歩に嘲笑で返すなど、礼に反する侮辱だぞ」
 振動刃サーベルを構えたふたりは、静かな足取りで従牙のそばにまで近づき、木々のあいだから差し込む夕陽でその身を彩る。
 ほかの隊士たちは、これより行われる形式上ではない完全な大将戦を憂慮し、飛翔艇の近くに逃げ込むように駆けて行くのだった。


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