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作品名:SとFの誤謬 作者:鈴木翔太

第1回 1




 ある意味では、独りでいるほうが都合は良かったのかもしれない。
 もちろん、それは現在時点の自分にとってという意味で、二極化されるまえの自分はそんなことを考えたりはしなかったのだろうが。
 ひとつであったものから分断されれば、そこにはまた別の個性が宿る。
 根頓(こんとん)に感情があったなら、こんな思考を嘲笑うのだろうか。
 おまえのそれは稼核(かかく)による尺度の変化であり、魂魄による個体感覚がもたらす杞憂にすぎない、と。
 それはおそらく正解だろう。こんなものはきっと一過性のもので、長々と語るには値しない感傷だ。
 だけれども、ソレは自分のなかに確かにあって、この胸の内でうなっている。うなり≠ェ治まるまでの時間が必要だ。うなり≠ノ気を留めないでいられる時間が、必要だ。
「ファントム。何か面白い話を聞かせて?」
 此処から下の世界≠覗いていた彼は、こちらの願いに戸惑う姿を見せた。
 どんなにおしゃべり上手な相手でも、この要求を満たすことは難しいだろう。
 それがわかっていて、こんな話題の振り方をする自分も自分だが、うろたえる彼も彼だった。そんな様子を見せられると、付け入りたくなる。
「ないの? 面白い話」
「ない……だろ? 何を話したらいいんだよ?」
「作り話でいいよ。ありもしない話、聞かせて」
 ファントムはさらに難しい表情になった。
 彼に『作り話を』、なんて、本当に自分は性格が悪い。
「スぺクトラ。あんた、わかっていて言ってるだろ」
「だって、退屈なんだもの」
「俺の代わりに下#`き込んでみたらどうだ?」
「観客にはもう、うんっざりなの。飽きちゃった」
 この発言は、七割程度が嘘だった。下の世界≠ナ展開される物語は面白い。しかし、飛び入りが禁止されているのはつまらない。
「一応は参加してるだろ? このあいだも、人界で仙界の世界柱(せかいじ)を倒したのは、あんたの力を帯びた殺し屋だった」
「あれは彼の者の遺産≠りきよ。それに、誰ひとりとして、私のことを知らないじゃない。自分たちだけでやったと思ってるんだ。生意気だよね」
 何を拗ねているのだと、自分でもスぺクトラは思う。
 されど、最も認識の外にあるというのは、悲しいことだ。


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