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作品名:ロスト・ネーム 作者:鈴木翔太

第91回 91


   Memory3-6

 デリンジャーが見せた演しものは、大盛況のうちに幕を閉じようとしていた。
 彼の華麗なる美技を、しっかりと両の眼に収めることはできなかったけれど、本来の目的の一端としてはまずまずだ。
 食事の好みや、心象のいい対応の仕方など、脳裏に入れておいた情報の活用は順調そのもの。それに相手が喜んでいるのが表情からわかると、こちらも嬉しい気持ちになる。学生時代には、ほとんど味わったことのない感覚。
 エストックやククリ以外にも、もっと親身になるべきだったか。
 などと、あまりにも遅い事柄をいささかばかり後悔していると、
「楽しい時は瞬く間に過ぎさるもの。下手の横好き、いかがだったかな?」
 という締めくくりの言葉とともに、彼は紙吹雪を帽子のなかから召喚する。
 みなの喝采と照明に輝く紙吹雪の反射を受けて、お辞儀を返す姿は優雅だ。
「床一面はご覧のありさま、散らかしたので後片付けの時間だ。お坊ちゃん!」
 口元に左手をかけて弟子を呼んだ彼は、帽子を人差し指で硬貨のように弄び、そこから煌かんばかりに磨かれた双剣を抜き取ってみせる。
「これ、リトル・ウィング?」
「さすが目敏い、ご名答! けど、これは試作品でね。あの夜に見たのよりは、なんていうかこう、イケてないヤツさ」
 葡萄酒を交わした日にちらっと見せてもらった、亡き相棒の形見。
 この得物は、その改良調整前の一品らしい。
「超絶イカした新装版のまえに、使い心地を学んでいてほしくてね。どうだい、これから?」
「直接、オレに指導してくれるってこと?」
 尋ねてみれば、ばちんっと、デリンジャーは右目を瞑った。
 計画段階では、〈狂公〉への師事はずっとあとからだったが、〈異名者〉たちのあいだで変更があったらしい。
「まぁ待て、デリンジャー。ワシもそこのクレメンツ君には話を聞きたいんだ」
 まだまだ壮齢と自他ともに認める渾が、我々の意思決定に歯止めをかける。
 一見したところ巨躯というほどの肉体ではないが、存在感は大きく逞しい。
「ほかの者はどうだ? この新入りと語らいたくはないか?」
 渾に水を差し向けられて、それぞれは声を発した。
「〈狂公〉に認められた少年。どんな相手か気にならないと言えば嘘になるわ」
「シエラ、なに面倒くさい言い方してんの? つまりは気になってんでしょ?」
「頭の悪い人は無理して理解しようとしないで結構ですぅ。CO2削減ですぅ」
 シエラが告げれば、マチルダにまたしてもコメットが突っかかる。
 喧騒を端に追いやるかのごとく、マカロフとトカレフは進み出た。
「初っ端から〈異名者〉とランデブーした新入りだぜ? 興味もつっしょ!」
「質問殺到! マンネリ解消! 新しい風、吹き荒れる! Whoooo!!」
 反応の良さから、すでに集まった者たちからは、興味を引けていたと知れる。
「ほれっ、決まりだ。後片付けもあることだし、少し弟子を譲ってくれ」
 デリンジャーは肩をたたかれ、仕方なしに、得物だけを卓上に置いた。
 クレメンツ少年が館内の映り込む刀身を覗いていると、すぐに質問が飛ぶ。
「ストライフ自衛団と殺り合ったんだってね。怖くはなかったの?」
「緊張はかなり。そのせいか、敵方はあまり怖くはなかったですよ」
「はっはーん。〈異名者〉六人のほうにブルッたんだ?」
「彼らを恐がらずにはいられません。ブリッツには斬られるかと思いました」
 冗談ではまるでなく、本心での回答だったが、ベレッタはこれに大笑いする。
「〈斬鬼〉はサムライだからさぁ、何かマズったらハラキリとか命じられそう」
「マチルダ、言葉遣いが乱れているわよ。それから、一人で喋りすぎ。交互に」
 シエラは静かに釘を刺し、〈ソウル・ガンズ〉に視線を送る。
 一組織に一問として、問答を順番に展開させたいみたいだ。
 彼女の意図を察し、今度は意気揚々とマカロフが口を開く。
「イカルスと〈狂公〉のことは聞かされていたか? Win-Winだったってよ」
「二人が相棒なのは討伐後に本人から。良好な関係だったと話してくれました」
「両者にメリットがあるパネェ間柄だった。イジリ倒したのがいけなかったぜ」
「イカルスの離脱の原因には、ほかの組織や裏稼業人の妬み嫉みがあったと?」
「深く切り返すなぁ、ルーキー。でも、それはあるだろうな。マジでサーセン」
 胸裏に苦みが奔ったのか、相手は目を伏せた。
 ふざけた顔はいちど退き、果物にかぶりつく。
「かぁーっ! レモン果汁、すっぺぇわッ! このレモン、パネェわーーッ!」
「柑橘系最強! 歓喜となり最高! 考えただけで絶叫! パネェわーーッ!」
 マカロフが騒げば、トカレフも連鎖反応を起こして、声をあげる。
 笑顔で怒るコメットが顔面に靴底を放つことで、両者は沈黙した。
 これにベレッタは間違ったカッコよさを覚えたらしく、コメットの行動に瞳のなかで星影を描いた。今後、悪い影響が出ないことを祈るばかりである。
「うるさいのがいなくなった。次はワシの番でかまわんかな?」
「ああ……どうぞ」
 クレメンツ少年が頷けば、渾は「幹部ははずしているんだが」と前置きをし、威厳たっぷりに口を動かした。
「取扱いに憂慮せねばならないものは、オチたこの二人や得物ばかりではない。〈ナイト・ウィッシュ〉の動乱については、ご存知かな」
 彼が問わんとするのは、少々ゆるまっていた場の空気を張り詰めさせる話題。
 パイソンより得た情報のなかでも、〈ナイト・ウィッシュ〉の項目は、刺激的な内容だと言えた。なんと、これなる組織の頭目たるハイドラ・フレシェットは、恐れ多くも〈双神〉相手に反逆を企てた事実があるというのだ。


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