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作品名:ロスト・ネーム 作者:鈴木翔太

第87回 O.O.S.『敵を欺くには』 その@


   O.O.S.『敵を欺くには』

 下階では、デリンジャーが様々な道具を使い、魔術師としての技量で仲間を楽しませていた。ステッキを花束に変化させたり、酒器に硬貨を貫通させたり、サインのなされたトランプを探り出したりと、その腕前は鮮やかなものだ。
 彼はトランプを短剣の束に変えてみせると、アシスタントに号令を放つ。
 黄色い雨合羽を着用した児童くらいの数名が、人間ひとりを収容できそうな縦長の箱を運び込んでくる。スミスがチャバと呼ぶ者たちが用意した箱を前に、
「次なる魔術は、手前にいる美女にお手伝いをいただこう! さぁ、こっち!」
 と、デリンジャーは高らかに宣言し、マチルダに右手を伸ばした。
 歓声を受けながら、彼女はどぎまぎした表情で、狂公≠フ指示に応じる。
 コメットが「美女というほど綺麗ですかぁ?」だの、「仕掛けは何もないから、お別れですぅ。ぐすん」だのと揶揄するも、シエラのひと睨みで口を閉ざした。
「タネも仕掛けもあるから大丈夫。見抜けた方には口止め料をお支払いするよ」
 魔術師にあるまじき発言のあと、デリンジャーはマチルダを箱のなかへ誘う。
 箱には次々と彼の手で短剣が突き立てられていくが、まさか同僚が血みどろになって出てくるようなことはないだろう。
 他者の目を欺き、心理を惑わし、それでいて喜悦をあたえる者。
 騙すことで相手を楽しませるのだから、魔術師とは奇怪である。
 通常、諸事の秘密とは、当人にとって弱みとなりうるために隠匿されるもの。
 だが、明るみとしないことを前提としたうえで成り立ち、露呈すること自体、観客にあまり好まれないのが魔術だ。隠されているからこそ面白いのだ、と。
 クリーンであっては仕事にならないという意味合いでは、裏稼業にも通ずる。もっとも、人々からの喝采の大きさは美しいまでに反比例するだろうが……。
「クラスター様。お食事はどうでゲス?」
 離れて見物している様子が気に留まったらしく、召使が皿を差し出してきた。磨き上げられた皿の上には、この宴席のため尊い犠牲となった鶏の脚、果物、野菜が盛りつけられている。どうやら、この召使には目を楽しませるセンスはなさそうだった。
 返事をせずに、飴色のパリッとした皮ごと柔らかな鶏肉を頬張り、咀嚼する。歯を押し返してくる弾力のある噛み応え、身から滴りあふれる肉汁。悪くない。
「ツギハギ。オマエ、何が望みだ?」
「……? 望みって、なんでゲス?」
 こちらから問いかけを投げると、グロックは不思議そうに尋ね返してくる。
魔銃のスミス≠ノ組する以上は、何かしらの旨味を求めてのことであろうに、とぼけて済まそうというつもりらしい。
「うぜぇ態度はやめろ。俺は奴から鈴を付けられているが、オマエは自由だ。やろうとすれば、デカいことができる」
「困ったでゲスな。クラスター様の言葉の意図がわからないでゲス。オイラは、スミス様の召使なだけでゲスよ?」
 上塗りされる白々しい発言に、クラスターが追及の弁を告げようとすると、タイミング悪く、屋敷に放していたトムが鳴き声をあげ、首輪の鈴を揺らした。
 飼い猫に意識を向けている合間に、グロックはほかの連中の元に移動する。
「…………あの野郎、どうにも臭いやがる。目を光らせておけ、トム」
 食べかけの鶏肉をトムの足元に投げつけ、ひと房のぶどうに噛り付く。
 果汁を飛び散らせながら、クラスターはグロックの後姿を睨み据えた。


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