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作品名:ロスト・ネーム 作者:鈴木翔太

第79回 O.O.S.『No Problem?』 そのB


「今日も走りまわった甲斐はなし。あの野郎、どこに行っちまったんだか」
「あのヤロウ、どこに行っちまったんだかっ」
 噴水広場のベンチに座り、ブリッツがこぼした台詞を、愛娘が真似をする。
 舌足らずな男口調を披露するベレッタへ視線を向けて、再度視線をはずす。
「街の外に出ているわけじゃねぇよな? だとしたら、俺は面倒見きれねぇぞ」
「だとしたら、オレはメンドウ見きれねぇぞっ」
 すると、またもベレッタが、はるかに高い声で父を真似て口をはたらかせる。
 実年齢以上に幼さを感じさせる遊びだが、甘えられているのだとしたら悪くはない気分だ。愛しさが込み上げてくる。
「なんで真似するんだよ、こいつ! うりゃっ、うりゃうりゃっ!」
「あははっ! あはっ、くすぐったい! やめろっ、やめろーっ!」
 首の後ろをくすぐってやると、ベレッタはきゃっきゃっと笑い声をあげた。
 身をよじらせながら、休日の親子の触れ合いを楽しそうに受け入れている。
 ――今朝、ここのところそうしているようにミラージュの捜索に街へ出ようとしたら、眠気に目蓋をこするベレッタに呼び止められた。
 父親の予定をある程度は理解している愛娘は、「今日はお休みだよ」と言い、こちらのジーンズの左足にまとわりつく。とても愛娘を引きはがすことなどはできなかったブリッツは、本日はベレッタを伴った捜索活動に出かけることとなったわけである。
『パパの友達がいなくなっちまってな。助けたいから、行かなきゃいけねんだ』
『それなら、あたしもお友達をさがすっ! 絵本のウォーリーみたいに!』
 絵本みたく見つかりはしないとだろ……とは思ったが、娘のやる気をわざと削ぐこともないので、黙っておいた。
 ミラージュのフル装備一式は、あの有名な赤と白のボーダーに負けない特徴を有している。あの絵本が得意なベレッタなら、案外、己よりも相棒の捜索が上手いかもしれないのだし、いっぺん試してみる価値はある。
 …………死んでいるはずはない。
 あの野郎は抜けめない使い手だ。
 仲間たちの前に現れないのは、思ったよりも期間があいてしまったために、出てきづらくなっているだけとみた。
「にしても、こんなに見当たらないのはどういうこった? 手紙でも寄こせよ」
 顔を見せなくとも、近況を知らせる方法はいくつかあるだろうに。
 知略に抜きんでたミラージュが、そうした思考をめぐらせぬはずがない。
 であるというのに便りも寄こさずにいるのは、再会にふさわしい場がほしいからではないだろうか?
征覆者≠ェ暗黒街に返り咲くのに見合った、裏家業人の祭典。
「逢魔の会」こそは、相棒にとって望ましい復活の晴れ舞台だ。
 もしかすると、宴席に姿を見せるときまで、雲隠れしているつもりなのでは?
「ありえない……こともないか。あいつの性格だと」
「いそうな場所、まだある?」
「ああ、まだそこに現れてはいないだろうけど、確率はかなり高ぇだろうな」
「じゃあっ、そこに行こう!」
 ベレッタは両足の力で地面を蹴って、ベンチから跳躍する。
 娘は父についてくる気満々らしい。実際、ここで別れるのもおかしなものだ。
 この子を会食に招待する手段もないわけではないが、〈客人〉制度は親族にも適用されるんだっただろうか。
「ベレッタ。これから行くとこには、ガラの悪い奴ら……というよりか、俺の同僚が集まるんだ。それでも、ついて来るか?」
「うん。だってパパがいてくれたら平気だもん」
「……おうとも! 俺がお前に悪さはさせねぇ。何があっても、守ってやるよ」


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