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作品名:ロスト・ネーム 作者:鈴木翔太

第65回 65


「盆栽――ですか」
 書斎に集められたグレイ、フレア、緋劉は、報告を受けて頭をはたらかせる。
 一昨日に引き続き、昨夜起こったクイックサンドホテルにおける異常事態に、トンファーは眉間の血管が破裂しかねないほどの怒りを燃やしていた。
「おうとも。盆栽は、美しく全体像を整えるために手入れが欠かせなくってよ。一方に栄養が偏らないよう、ときに枝を切ることがあるんだそうだ」
 現場の様子を念写した羊皮紙を机に広げて、老師は忌々しげに先を続ける。
「ホテルで下手人がやったのはまさにそれだ。一部だけが育ちすぎないように、不恰好な枝を斬り落としたんだろう。ハンッ、続けざまにやってくれやがる!」
 彼が怒りに長机を叩けば、四本の支えが完全に床面を突き破った。下階では、弟子たちが何事かと騒ぎ立てていることだろう。
「ですがトンファー老師、貴方の例えで言えば、この樹木が都市の全区域に根を張っていることになりませんか?」
「例えはあくまで例えだ、グレイ。下手人は警戒心の薄い愉快犯。そんな細かな気配りをしているわけがねぇだろう」
 事もなく一蹴された意見を、グレイは顎に手を当てて、なお思考する。
 念写された樹木はかなり大きい。こんなものを短時間で出現させられるなら、下手人が街全体を樹木によって制圧しないと、どうして言いきれようか。
 だが確かに、自己顕示欲の強い手合いには違いなさそうだ。単独犯……?
「焦るなよ、おめぇら。冷静に作戦どおり行動すりゃあ、どうにかなる」
 グレイの沈黙を会議の終了と受け取った老師は、腰をあげ、窓から噴水広場の様子を眺める。茜色に染まる街を見下ろすと、静かに結びの文言を口にした。
「ブレイゾンシュタットを護るんだ。仙術の神髄、愉快犯に知らしめるぞ」


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