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作品名:ロスト・ネーム 作者:鈴木翔太

第57回 57


 自宅では、ベレッタが脹れっ面で玄関に立っていた。
 思わずブリッツは、額を右の手のひらで打ちつける。
「た、ただいま。ベレッタ」
「おっ、そっ、ぃぃいいっ!!」
 ベレッタは歯を剥き出しにし、つま先立ちになって、大げさな声を出した。
 明日はお隣さんに頭を下げないといけないな、などと考えながら、ブリッツは娘の目線に合わせるべく膝をまげる。
「すまねぇ、プリンセス。今日も仕事仲間が――」
「それっ。もう聞き飽きた」
 ベレッタは腕を組んで、あらぬ方向に顔を向ける。
 単純に怒っているだけならばいいのだが、目元が腫れていたりする現状には、かなり父親としては心痛むものがあった。
「頼むベレッタ、明日は完全に空いてるんだっっ!」
 ズザァァアッと音を立てながら、ブリッツは中腰の姿勢から土下座に入った。
 もしスミスなどに現場写真を撮られたら、死ぬまで物笑いのタネにされること請け合いである。
「今からがベレッタの誕生日だ。すでにもう二日経っちまったようなもんだが、今夜はオールナイトOK! 真夜中でのデザートもOK! カラオケにビンゴ、各種ゲームも全部OK! だから、どうか誕生日を祝わせてくれぇええっ!」
 実の父親がここまでするなどとは予想していなかった娘は、ポカンとなって、大きく口を開けた。
 ベレッタの本音を言ってしまえば、誕生日パーティ自体は、初めからどうでも良かったのである。
 ただ、父親と過ごせる日数を、少しでも減らしたくなかっただけなのだ。
 ベレッタは幼いなりに、父親がこなす仕事がどのようなものか理解していた。危険がつきまとうものであることも、そのせいで授業参観に来られないことも、母方の両親とケンカしていることも、じゅうぶんに承知していた。
 そう。ベレッタは己自身の望みが、いかに父親にとって大変な要求であるか、わかっているのだ。勤務形態が不安定なことも、自らを置いて急いで出かける夜があることも、すべてを。
「――…………、〜〜〜〜ッッ!」
「……! ベレッタ、どうした?」
 声もなく泣き始めた娘に、思わずブリッツはうろたえる。
 理由を尋ねても泣きやまないので、真剣に頭を悩ませることになった。
 けれど、そのままにしておくわけにはいかず、ベレッタを肩車すると、
「悪りぃな。ダメな親父で」
 と、一言だけ詫びを口にした。
 娘は見えないところでブンブン首を横に振っていたけれども、ブリッツには、ずいぶん嫌がれているらしい、というズレた認識が胸に去来する。
「誕生日、パーティ……するなら、お家がいい……」
「家でいいのか? おいおい、遠慮しなくても、明日ガッポリ稼げるんだぜ?」
「お家がいいのっ! お家でなきゃだめなのっ!」
「そっか……ならよ、早く入るか! 外は寒ぃわ」
 ベレッタの言うことに、ブリッツは駆け足で玄関をくぐった。
「よっしゃあっ、盛大にやるぞーっ!」
「おぉーーっ!」
 父親の意気込みに、娘は元気な声で応えるのであった。


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