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作品名:ロスト・ネーム 作者:鈴木翔太

第48回 48


   O.O.S.『Going My Way』

 イカルスは最上階のスイートルームにて、きわめて希少価値の高い、年代物のレコードに耳をかたむけていた。
 現在は世界的に評価されたバンドグループの初期にあたる、永い下積み時代の自主制作品。音質は悪く、ときにグループの怒声のようなものも混じり、素人の編集のせいで繋ぎも下手くそだ。
 けれどイカルスは、このレコードが好きだった。
 荒削りではあるが、この作品には熱量があった。
『これから駆け上がろうぜ!』という、バンドグループ内の熱烈な意気込みを、胸の奥に感じとることができる心地良さが。
「……十四年か。こちら側≠ノ浸かって、十四年…………」
 歳月の重みを想い、いつも思い出のそばにあったレコードの表面を見つめる。
 このレコード盤は、こちら側≠フ初仕事で入った資金で購入した。いわば、イカルスの原点である。
『ストライフ? 闘争って意味だったよな』
『そう。ストライフ自衛団。俺の大事な奴らを守る組織の名だ』
『組織、ねぇ。俺はそんなに大きな物を背負える男じゃないぜ』
『心配ないって。絶対にうまくいくさ。おめーと、俺ならよ!』
 わずかに、イカルスは頬を緩めた。
 幼い日の約束。拙い友情。泥土に塗れた現状。
 そのどれもが、可笑しくてたまらなかった。
 あまりに面白いので、笑いすぎて涙まで出てくる。
 大事な奴らを守る組織。それがイカルスの夢だった。
 大切な家族と手をとる。それが相棒との誓いだった。
「これが、運命ってヤツか? ハナッから決まってたってのか?」
 馬鹿な。と、イカルスはそう思った。
 未来とは過去の積み重ね。ならば、決定を下してきたのは、常に己自身の心。
「男の鉄則――守ると決めたら、ためらうな……だ」
 蓄音機の音量をあげて、部屋の外に待機させているディアナのほうへと向け、重苦しい足を進める。
 ディアナはこの事態を、どう感じるだろう。頭になる好機か、それとも……。
 歳を重ねるたびに、疑心が想いを縛っていった。
 組織をまとめる者の憤り、不安の募り、弱音を吐けない孤独。
 身内を守るためとはいえど、際限なく手を染めたえげつない行為。
 自らの求めた清廉なる夢と、それを現実に移すための邪悪な運営方針。
「だが……だが俺は、ファミリィを守る。この組織を守る。自分の意志を守る。俺は、ストライフ自衛団団長、イカルス・ストライフだ!」


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