小説&まんが投稿
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:ロスト・ネーム 作者:鈴木翔太

第47回 Memory2-10 そのB


「いたぞ、殺せぇぇぇえええッ!」
 エレベーターで昇った上階には、衛兵の一個小隊が待ち構えていた。
 到達するやいなや、連射される鉛弾を、狂公≠ニ斬鬼≠ヘうんざりした顔で捌く捌く捌く捌く捌く捌く捌く。
 あたかも鉛弾が得物に吸い込まれているかのように、娯楽映画のワンシーンを早送りで再現するみたいに、捌く捌く捌く捌く捌く捌く捌く捌く捌く!
「個人的に、銃って好きじゃねぇんだよなァ」
「エンちゃま。タイプライターが発売された時の作家みたいなこと言うなよ」
「そりゃあどういう意味だよ、ヴェイグ」
「新しい文明を否定していると、取り残されちまうってことさ」
 デリンジャーの言うことに、ちらりとブリッツは私を見やる。
 今しがたの言葉は、彼なりの例え話だったのだろう。
 新しい文明。新しい常識。新しい法則。
 その意味するものは――――
「ナマを叩くホラ吹き小僧……へっ、いいぜ。詳しい事情はわからねぇけど、俺はテメェに一口乗ってやるよ、ヴェイグ」
「ありがたいけど……今の、なんかバカッぽく聞こえたぜ? 持ち出された話に飛びついただけ、みたいな?」
「バカでいいんだよ。男がバカやらねぇ新時代なんて楽しくもねぇ」
「あひゃはははっ、わかってらっしゃる!」
 デリンジャーは相手とともに銃撃を捌き、空腹になった玩具を構える衛兵を斬り捨てる。わずか数名を始末したところで、敵勢は減ることを知らないが、狂公≠ェ身に包む闘気は、むしろ押しかけ開始時よりも濃密なものとなっているようだ。
 ……そんな彼の二歩ほど前に、ブリッツは言葉もなしに歩み出た。
 その位置から後方にいる蒼の顔を横目で見ると、衛兵を睨みつけながら、
「ひとつ貸しにしとくぜ。謝礼の仕方、わかってるよな」
 と、静かに語りかけた。
「もちろん把握している。娘を笑ませる、景気のいい誕生パーティにしてやれ」
「あいよ。ようやく乙女座のツイてる場面が見せられそうだ――ぜぇえいッ!」
 ブリッツは殺人旗オニキリを両腕に構え、床に突き立てるように振り下ろす。染み渡った斬撃は足元を揺るがし、彼もろとも、衛兵たちを人為的なクレバスへ呑み込んだ。
「なっ……、アンタ、いったい!?」
 下階に降り注いでいく瓦礫と戦士たちに、クレメンツ少年は驚愕した。
 このような無茶をしでかして、無事でいられるのか?
 死ぬつもりはないと言ったのは、そちらではないか!
 信じがたい威力で床を斬り裂き出来た大穴に、私はすぐさま近づいてみる。
 だが覗き込んでも、下の様子は暗がりと距離のせいでまったくわからない。
「――まったく、無茶をする」
 横隣で蒼が、破壊された床の破片を踏み砕いた。
「ヴェイグ。この働きは、俺の懐だけでは足らん。おまえも財布を犠牲にしろ」
「今月カツカツなんだがな。しゃーないやねぇ。全員で支払うんじゃダメかな?」
 あっけにとられる私とは異なり、デリンジャーと蒼は慌てた様子を見せずに、事実を事実として、なんの拒絶反応もなく受け入れていた。
 そして、彼らが話しているのは、この一件を生きのびたあとの話だ。
『謝礼の仕方』『財布の中身』『全員で支払う』
 どれひとつとして、ハッキリとした語句を用いたものではない。
 どれもハッキリとした語句を用いたものではないが、ちっぽけで愚かな小僧にもわかるくらいに、彼らの意志は明確だ。
「行くぞ、少年。幹部はこの先にいる」
「…………わかってる。前に進めばいいんだろ」
 態度は言葉よりも、雄弁なものである。
 それは善悪も同じだ。その人物の本質を他者に伝えるのは、前進するための行動なのだ。言うまでもなく、それは受けとる相手によって解釈の別れるものであるが――私にとっては、歩みを進めるふたりの戦士の行動が、善いことに感じられていた。
 信じるなんてたった一言より……よほど清らかな情愛の示し方であると。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 354