小説&まんが投稿
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:ロスト・ネーム 作者:鈴木翔太

第45回 45


   Memory2-10

 私は無我夢中になって、三人の足について行っていた。
 なにせ歩幅が違うのだ。あとを追うだけでひと苦労である。
 このときはまだ名も知らなかった〈斬鬼〉ブリッツを先頭に、私たち四人は、押し出てくる敵勢の波を突破する。
 殺人旗が舞い、籠手が唸り、刺突剣が煌めく。
 彼らのあとには、台本どおりに演じる役者のように、衛兵たちが赤黒い彩りを添えて倒れていく。
 戦況の駆け引きが特にうまい〈狂公〉。
 業界屈指の技量を持つ拳闘士〈破拳〉。
 兵法に基づく攻め手が冴える〈斬鬼〉。
 これなる三名の猛者が相手では、木端衛兵ごときに勝ち目があるはずもない。
「来たぞ、ニレオ。御身は小生が守り抜く」
「! パイソンッ!」
 隣からいきなり話しかけられたので、私は突拍子のない声を出してしまう。
 隊列順で私の前にいるデリンジャーは、衛兵らの銃撃を刺突剣で見事なまでに逸らしつつ、こちらをうかがう声を投げた。
「んん? 何か言ったかい、お坊ちゃん」
「い、いやなんでもない。オレは大丈夫」
「――そうか。気ぃ抜くんじゃないぜぇ?」
 一連の銃撃を防ぎきった彼が振り返ると、蒼が床面を蹴って前方に飛び込み、重みのある両拳撃でふたりの衛兵を気絶させる。蒼は流れるように白目を剥いたふたりを蹴り飛ばして、敵の後続をビリヤードをやるように衝いた。
「ブリッツ!」
「あいよォ!」
 全体の体勢が崩れたところで、ブリッツは一振りで敵勢の胴を輪切りにした。
 ブリッツの身体に緋色の化粧が注されるも、彼にはそうした様子がとてもよく似合っていた。実在する修羅とあれば、こうした装いが様になるのも当然ということだろうか。あるいは彼らには、この化粧こそ礼装と呼べるのかもしれない。
「なんでぇ、大して陽動の意味がねぇじゃねぇか。人数だけは揃ってやがるぜ」
「くたびれちまうねぇ〜〜。幹部たちに会うまで、両腕が攣らなきゃいいけど」
「鍛錬が足りないぞ。己を律することを忘れるな」
「逆にテメェは、休むことを覚えたらどうよ?」
「あー、それは言えてる。隙がないとモテないよん?」
「ふっ、余計な世話だ。おまえたちが女性と縁があるとも思えん」
「「それを言うなよッ、心が抉られるからッッ!!」」
 余裕ある談笑に花を咲かせるデリンジャーたち。
 彼らが語り合っているあいだに、パイソンに首尾を確認する。
「パイソン。父さんを殺した奴はどこに?」
「幹部らは、昇降機を使った上階におる。ウクル・ストライフは兵装収納庫だ。装備を整えているあいだに、陽動にいった連中の大暴れで収納庫の防護幕に隔離されたようでな」
 あのトンデモ兵器なら無理もない。と、パイソンの伝える情報に頷き返す。
 事前に把握したアジトの構造から、デリンジャーたちも幹部らが上階に集まるだろうことは予想がついていた。
 彼ら曰く、俺たちみたいなバカは高い所が好きだからな、だそうである。
 私は拳銃を利き手に握りしめ、これから行う殺人の方法をシミュレートする。
 いかが荒くれ者であろうと、限られた場所に閉じ込められたひとりの人間だ。クレメンツ少年だけだとしても――どうあってもパイソンは同行するはずなので実際はふたりだが――対処の仕方はいくらかある。
 クレメンツ少年は、パイソンのもたらした情報に全幅の信頼を寄せていた。
 というのも、彼が何者なのか、ホテルを襲撃するまえに予測がついたからだ。
 予測がつけられた理由は、大きく分けてふたつある。
 ひとつは大蛇(パイソン)という渾名。もうひとつは、クレメンツへの援助。
 そして、はずせない確信は、彼がこちらからの申し出を完遂した事実にある。
「パイソン。共に敵を討とう。オレたち二人で」
「是認した。必ずや、やり遂げようぞ」


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 703