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作品名:ロスト・ネーム 作者:鈴木翔太

第41回 Memory2-9 そのA


 パイソンの協力もあり、ウェッソンさんは六人の異名者≠フ集う中華飯店、木蘭艶紅まで私を送ることを承諾してくれた。
 思うに、交渉を持ちかけたのがウェッソンさんだから良かったのだと思う。これがもし、スミスさんに持ちかけた交渉だったなら、私は実に風通しのいい身体になっていたはずだ。
「――ってなワケだ。こいつも、連れて行ってやってくれねぇか。おれの顔を立てると思ってよ」
「こんな若者をか? 俺は反対だ」
 ウェッソンさんが説明すると、茶髪の男が真っ先に異議を唱えた。蒼流星だ。
「足でまといは必要ねぇ。クソガキはお家に帰ったらどうだ」
「クラスター? 『危ないから自宅に戻りなさい』でしょ?」
「るせぇ。娼婦も夜の街に消えろ」
 初めて見るサンバイザーの男と、修道服の女も私を迎える気はないらしい。
 てっきり、双神≠ヘもっと支配的な立場にあるものと想定していたのだが、身内の人間とはちゃんと話し合う方針のようだ。
「俺はいいと思うぜ? ダメでも死ぬだけだろ」
「なるほど一理ある。ただ連れて行くだけなら、別に構わないかもしれないな」
 全身に刺青をしている男に続いて、仮面と装飾を纏った男が嗤う。
 この場にいる者たちの反応は当然だった。私のような小僧に手を貸してやる義理はない。言葉ではなく対応で、みんなはそう明確にこちらに告げている。
「ヴェイグ。おまえの意見はどうなんだ」
 両腕を組んで、蒼がデリンジャーに話しかけた。
 デリンジャーは同士の輪のなかでは帽子を脱ぎ捨てて、惜しげもなく左目のドクロを照明で輝かせている。
「普通だったら、その場の雰囲気に合わせたことを言うんだろうな。この場合」
 彼はどこかもったいぶって、椅子から立ち上がった。
「けど、そんなのは――」
「「「「「『面白くない』って?」」」」」
 私とウェッソンさん以外が、一言一句違えずに口にすれば、デリンジャーはぽかんと口を開いた。
「え? なにっ、君らエスパー?」
 聞き返されるなり、みんなはそれぞれ、
「ふっ、何がエスパーなものか」
「ワンパターンなだけだ。単細胞」
「これまで何回も聞いたわよ? あなたのその台詞」
「もちっとバリエーション増やせよ、テメェはよ」
「しかし、これでこそヴェイグ・デリンジャー。そうだろう?」
 と、好き勝手なことをのたまう。
 そして、それからの行動は迅速であった。ウェッソンさんからもぎ取るように報告書を奪うと、テーブルに広げ、敵城の見取り図から侵入経路を確認する。
「ホテル従業員の専用入口があるね。ここから乗り込めるんじゃなぁ〜〜い?」
「そんな脳みそ三ミクロンも使ってねぇ手で行く気か。蛆でも湧いてんのかよ」
「ミクロン? ミクロンって、なんの単位だったかしら?」
「おまえは無用な単語を拾って、どうしようと言うんだ?」
 ……ちょっと待ってくれ。私を連れて行く、行かないの話はどうなったんだ?
 すでに攻め込むことに話題が移っているようだが?
「あの、オレのことは結局、どうなって……?」
「それは私が責任を持つよ。そう言わなかったかい?」
 へ? 聞いた覚えはないぞ。
「あー、そうそうっ。ところでお坊ちゃん、アンタ、楽器はイケる口かい?」
 前触れもなく出てきた問いに、クレメンツ少年は片眉を下げる。
 修道服の女は、これに忍び笑いをして口を開いた。
「弾けないなら、あなた、大変よ? これから大切なショーの時間なんだから」


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