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作品名:ロスト・ネーム 作者:鈴木翔太

第40回 40


   Memory2-9

 申し出を聞いたウェッソンさんは、頭を痛めた様子で額に手をやった。
 事情を説明し終えたクレメンツ少年は、そんな彼を無遠慮な眼で捉えている。
 こちらは先んじて手を打てたことで、相手方にこれからやらねばならない事柄が出来たことを知っている。ストライフ自衛団討伐という厄介な仕事だ。人数が多いに越したことはないはずである。
「考えてることはわかるよ、ウェッソンさん。心得のない子供を連れて行きたくはないんだろ」
「しかし、お前はついてくる気なんだよな? 瞳の奥がギラギラしてやがんぞ。しかもお前、ただの子供ってわけじゃねぇようだしな」
 ウェッソンさんが両肘をついているカウンター席には、詳細な報告記録が五枚も詰まれている。これから討ちとるべき標的のものだ。
 イカルス、ディアナ、ウクル――三幹部の得物。修得技術。性格分析。略歴。現在根城としているアジトの所在までも記された報告書。
 このような代物は、むろん、ただの子供では手に入れようがない。
〈双神〉ですら取集に苦心していた情報をいとも簡単に提示したクレメンツに、ウェッソンさんは興味を持っているようでもある。
 彼は子供をいきなり戦場に連れ出すという一般的な非常識と、ほかにない技術を持つ有用なる同志は引き抜くという暗黒街の常識に揺れていた。
「聞いてよウェッソンさん、オレはアンタに百万ユーロと標的情報を提供する。その代わり、アンタたちの仕事を手伝わせてもらいたいだけだ。ひとつとして、都合の悪いハナシじゃないと思うけどね」
「――仇討ちなんて修羅の道だぞ? この世界は底なし沼だ。浸かったら最後、沈み続けるしかない。ちゃんとわかってんのかよ」
「…………わかってないのはアンタだ。ウェッソンさん」
 彼から放出される威圧感のなかで、私は眉ひとつ動かさずに返答する。
「オレは仇討ちなんて立派な目的は持っていないんだよ。ただ個人的に消化不良だから、スッキリしたいだけなんだ」
 それと、と私が握っていた拳を開くと、空間からマッチがひと箱降ってくる。ウェッソンさんはこれに、あからさまに驚いた様子を見せはしなかったけれど、両の瞳をわずかに揺らした。動揺はしているようだ。
「この提案を蹴るのなら、情報は燃えカスにさせてもらう。アンタがどれほどの手練れでも、視えなきゃ報告書を守るのは難しいと思うけど?」
「ふん、ケチな脅しだぜ。そんなもんで、このおれが――」
 ウェッソンさんがクレメンツ少年を笑い飛ばそうとしたときだ。カウンターに内蔵されている調理器具が一斉に火を噴いた。
「ぬごっ!? クレメンツ、お前ッ!」
「誰もマッチで燃やすとは言ってない」
 この瞬間、本当は私自身も、噴き上げた火炎に両目を白黒させていたのだが、幸いにもウェッソンさんには気づかれなかったようである。
 情報どころか、店舗が火事になるかも知れない危機的状況。気が動転していたとしても仕方がないだろう。
「悪いけど、早くしてもらえないかな? 急いでるんだ、これでも」


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