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作品名:ロスト・ネーム 作者:鈴木翔太

第38回 Memory2-8 そのA


 父は部屋のなかで、布を被せられて横たわっていた。
 腹部を丸ごとえぐられたかのような傷口をクレメンツ少年に見せるかどうか、病院関係者は迷ったようだったが、制する者たちを振りきり、強引になかへと踏み入る。布を一度に取り払うと、背後で母とホーネットの悲鳴が上がった。
 至近距離からの一点に集中した爆発的な肉体破壊。それも、一瞬のうちに。
 来る日のため学んでいた医術書には、こんな事例は記載されていなかった。こんな所業が成せる者がいるとすれば、それは二通りの可能性しかない。
異名者≠ゥ仙術師でなければ、こんなことは出来っこなかった。
 だがそんな理性的な判断も、胸に込み上げる激情に、別の方向にすり替わる。
 なぜ、なんで死んでいるんだ、父さん!
 あんなに威張ってて、あんなに偉そうで、あんなにオレを見下して!
 そのくせ、こんなにもあっさりと…………さよならの一言も無しに!
 起きろ、起きろよ! 起きてくれよ!
 私は――気づけば父の遺体に掴みかかり、がくがくと揺さぶっていた。
 父の眼は私を映してはいない。唇から怒声は聞こえない。
 ただ、私ひとりが、無様に喚きちらしていた。
 認めざるを得ない命の終わり。魂の喪失。
 その事実を前にして、私は狼狽したのだ。
「やめなさい、ニレオ!」
 悲痛なる母の叫び。
 振り払われる平手。
 床にくずれる身体。視界を埋める白い床。
「お父さんを失って悲しいのはわかる。けど、その悲しみをこの人にぶつけて、何になるの!? 何になるのよ!」
 倒れて見上げる母の姿で、私の頭は冷静になる。
 狼狽しているのは自分だけではない。そう知れると、わずかながら落ち着くことができた。
 そのうえ、母の姿は私よりよほど……よほど痛烈に……。
 父を奪い、母を悲しませる者。そんな奴は、オレが――。
 決心を済ませるのは、頭で思っていたよりも簡単だった。
 私はこの一件に、私自身の手をもって片をつける。
 人殺しに堕ちてでも、この想いは完遂してみせる。
 ――大丈夫さ。当てはあるんだ。
 彼なら、自分をその道で。必ずや、その道で活かしてくれる。
 いよいよ、人生の転機が訪れた。見えざる両手が、私を誘う。


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