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作品名:ロスト・ネーム 作者:鈴木翔太

第33回 O.O.S.『仙術師と識神』 そのA


 最上階。トンファーの書斎。
 特注の机に書物を並べ、迦仙を取り仕切る老師トンファーは頭を痛めていた。
 ブレイゾンシュタットに、仙術師にとても近い秘儀を操る術者が隠れ潜んでいることは、かなり前から気づいていた。
 けれども、その足取りがどうしてもつかめない。証拠隠滅能力に長けた相手の動きは、予測もできなければ意図さえ見当がついていない。
 そこに来て、昨晩の邪気騒ぎは、トンファーにとって、挑戦と受け取らざるを得ない事件だった。
 相手は我々、仙術師をおちょくっているのだ。
 お前たちは無能で、のろまで、こうでもしなけらば遊び相手にならない、と。
「ムカッ腹が立つぜ。ちくしょう。必ず尻尾を掴んでやるぞ」
 トンファーは身に着けている男性用の特殊法衣を、自身の鍛え抜かれた筋肉でパンパンに膨れ上がらせて、渾身の力で右手を机に叩きつける。ミシリと、これによって机が軋んだので、トンファーはますます頭を抱えることとなった。
 そんなおりに、トントンッと、蒼劉が書斎の扉を叩く。
「開いてるぞ。どいつだ?」
「トンファー、あたし、あたし!」
 彼女は重い扉を押し開け、汗で張りつく札と前髪を気にしつつ、姿を現した。
「グレイの代理で、頼まれた場所を調べてきたよ」
「おうよ、ご苦労さん。そいで、どうだったんだ」
 蒼劉は秋蜘蛛に教えたのと寸分違わぬ事柄を、トンファーに向かい説明した。
 術者本人も気がかりではあるが、その者から指示を受けているモノにも注意せねばならないらしい。そのうえ、着ぐるみの機能を向上させるため、次なる犠牲者が出ないとも限らない。
「どうやら、のんびり構えてる余裕はねぇようだな。俺様たちもコケにされたままでは終われねぇ」
「だよねっ、こんなことをするひどい奴は見逃せない」
 蒼劉は腕を振り上げ、胸にたぎる情熱の炎を燃え上がらせた。
 トンファーはそうした彼女の様子に、ニヤリと唇を綻ばせる。
「へっ、よくぞ言った! 悪党を逃すなんてあっちゃあならねぇからな!! 蒼劉、グレイとフレアを呼んできやがれ。草の根を分けてでも、相手を見つけ出してやるんだ!」
「もちのろん! すぐに二人を呼んでくるからね、トンファー。こういう兇徒にはお仕置きが必要だもんね!」
 ふたりはガッシリと握手を交わして、瞳に爆炎を巻き起こす。
 トンファーの教えは、努力・向上・飛躍の三大原則からなる。
 古き良き精神論には、馬鹿にできない力強さがあるのである。


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