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作品名:ロスト・ネーム 作者:鈴木翔太

第32回 O.O.S.『仙術師と識神』 その@


   O.O.S.『仙術師と識神』

「ガードが堅かったなぁ、あの男の人。お礼、しそびれちった」
 歩くたび、額に張りつけられた札をぺらぺらと動かしながら、白塗りの居城・迦仙の門前まで蒼劉はやってきた。
 正面大門に配備された筋肉質の門番ふたりが蒼劉に気がつき、両開きの扉を大きく開け放つ。
「蒼劉様、よくぞお戻りになられました」
「皆様もッ、貴方のお戻りを待っておられたようですぞッ!」
 落ち着き払われた門番と、元気が有り余っていそうな門番とに話しかけられ、にこやかに城内に足を踏み入れる。
「うむ、苦しゅうない! ……なーんてね。グレイとフレアはどこ?」
「お二方は、城壁広場にいらっしゃいます」
「そっか。ってことは、早速なんだ?」
「はいッ! グレイ様とフレア様は、模擬演武の真っ最中でございますッ!」
 門番たちに頷き、蒼劉は頭をはたらかせた。
 あのふたりが修練中ならば、報告を済ませる相手は彼らの師範だ。筋骨隆々とした師範に手早く報告を済ませ、ふたりの修練を覗き見に行こうと決定し、最上階に続く階段を上り始める。意気揚々と三階にまで上り詰めたところで、蒼劉の双眸に、コンビを組んで何年になるかもわからない、いささか捻くれたパートナーの姿が飛び込んできた。
「よう。お早いお着きじゃないか、蒼劉」
 彼の名前は秋蜘蛛(あきぐも)。蒼劉とは対照となるように「戦」と記された札を額に張りつけ、長い髪は風になびき、口元は薄汚れた布で覆われている。流浪人を思わせる傷んだ衣服は、これまでくぐり抜けてきた修羅場の多さを、見る者に伝達していた。
「それ皮肉でしょ、秋蜘蛛。いっつも意地が悪いんだから」
「急に素直になったほうが気味悪いだろ。それでどうだ、確認はとれたのかよ」
 三階にある食堂から歩み出てきた秋蜘蛛は、壁にもたれかかって尋ねる。
 蒼劉が迦仙より外に出ていたのは、もちろん理由あってのこと。
「ひどかったよ。秋蜘蛛が代わりに行ってくれたら良かったのに」
「――――死んでいたのか」
 秋蜘蛛の短い言葉に、小さく頷いた。
 日がどっぷりと沈みきった昨晩の九時過ぎ。仙術師とそれに連なる者たちが、街を駆け抜ける邪な気を感じとっていたのである。
 が、その発生源は瞬く間に移動し、その名残のみが残り香みたく漂い続けた。蒼劉はその地点に赴き、うち捨てられた邪気の抜け殻を見てきたのだ。
「成人男性の遺体だった。見るも無残な腐乱死体。死後二カ月は経過してたよ」
「着ぐるみの代わりにしていたんだろうな。部位はすべて揃っていたのか?」
「ううん。頭部なら頭部の片方、腕なら腕の片方。どっちかは奪い去られてた。思うに、次のボディに再利用する気なんじゃない?」
 蒼劉の考えに、秋蜘蛛は顔をしかめる。
 実に胸糞悪く、効率的とは呼べない術式だ。あれだけの邪気を巻き起こせる術者なら、もっと効果的な秘儀を用いられるだろうに。
 それを、なぜこのような手段を用いているのだ。
 まるで、芝居がかった悪趣味な演出ではないか。
「俺の質問はこれが最後だ。おまえは、持ち去ったのが識神だと思うか?」
「たぶん、違うよ。なんだかもっと、輪郭のハッキリしない奴みたいだね……。ほらっ、あたしたちみたいなら、他人の身体なんていらないわけじゃん」
「そうだよな……じゃあ、何者だったんだ……?」
 秋蜘蛛は腕を組んで、正体のわからない不気味な存在について考える。
 そうした秋蜘蛛の真横に近づいて、蒼劉は片手をぷらぷらと振るった。
「あたしらが考えても無駄だよ。難しいことは、今の仙術師が考えたらいいの!」
「蒼劉……。おまえはそればっかりだな。とはいえ、俺も特に反対意見があるわけじゃないが」
 老師に会いに行くつもりか。と、秋蜘蛛は上に続いている階段を顎で示した。
「もちのろん! グレイの手に入れた遺物も、じっくりと見たいものっ」
 蒼劉は二度も首を縦に振り、そちらに向かって小走りになる。
 それから、足をかける前にパートナーを振り返って、口に片手を持っていく。
「あっ! 秋蜘蛛、あたしがトンファーと話し終えるまで、ここにいてよ」
「あぁっ? なんでだよ?」
「グレイとフレアの修練を見たいのっ。一人で見に行ったらパンチだからねっ」
 バタバタと駆け上がっていく蒼劉を瞳に宿し、秋蜘蛛は鼻から息をついた。
 伝える暇はなかったけれど、秋蜘蛛はもうすでに、自分たちの召喚者であるグレイ・セイントの新しい武具を目にし終えていたのだ。
 しかし、文句を言いながらも務めを果たしてきた蒼劉の言葉である。守ってやらねば殴られるようでもある。言いつけどおりに待っておくことにしよう。
「戻ってくるまで、仮眠でもとっとくか。あれでも、俺の大切なパートナーだ」


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