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作品名:ロスト・ネーム 作者:鈴木翔太

第24回 24


   O.O.S.『真夜中のかくれんぼ』

 ふたりの退出を見送り、ウェッソンは一息ついてから、秘蔵の酒瓶を開けた。中身を差し出した器に惜しみなく注いだあとで、直接、口をつけて喉を鳴らす。
「ふぃーっ。うまいじゃん、コイツ」
「まぁ、なかなかってとこだな。イタリアから買いつけたが、値段ほどの代物とは言えねぇよ」
 刻んだキュウリを一枚噛み、ウェッソンは、こちらのそばへと腰を下ろした。その手には、カウンターの下から出現した刀剣が握られている。
 水に濡れたように美しい刺突剣ラ・イールを目にし、〈狂公〉は頬を緩めた。
 素晴らしい。まるで新品同様だ。この界隈で武器を扱わせたのなら、〈双神〉の右に出る者はいないだろう。剣はウェッソン。銃ならスミス。優れた使い手は、優れた守り手でもあるというわけだ。
「うぅ〜〜ん、いい仕事してますねぇええっ」
「当たり前だろ。誰がやったと思ってんだ?」
 得意げに両目を細め、ウェッソンは顔の入れ墨に段差をつくる。
「ははっ。そういう言い方、スミスの奴にそっくりだ」
「従妹だからな。仕方がねぇってもんだ」
 恐ろしい家もあったものだと、デリンジャーはパスタを巻きながら思考する。天は人に二物を与えないというが、例外もあるのだ。こうした強者たちの傘下にあれることは役得といえるのだろうなと、独りごちてニヒルな笑みを浮かべた。
「あー、でも、ジャンヌは?」
「ありゃ、もう少しかかる。使い手の手入れがなっちゃいねぇんでな」
 じろっとウェッソンに一瞥されたため、片手で拝む真似をしてやり過ごす。
「めんご、めんご。それじゃ、アンタの依頼はこれ一本でこなさなきゃだな」
「いけそうか?」
「だいじょーV」
 二本指を立てて応えてから、「でもさ」と唇をはたらかせる。
 ささいな疑問とはいえ、元締めに尋ねておきたいことがあったのだ。
「店にはすでに、こちら側の男がいただろ。なぜ、あいつに話を振らなかった」
「…………お前、会ったの?」
「出る場所と入る場所が一緒なんだ。顔くらい合わせるさ」
 声をかけられなければ普段と恰好が異なるために気づかなかっただろうけど、と付け足して、パスタを音を立ててすすり上げる。
「あいつに言わなかった理由は……なんだ。つまりはな」
「ふん、ふん?」
「――おれぁ、あの野郎が嫌いなんだよ」
 告げられた理由に、ガタタッと、無様にデリンジャーは椅子から転げ落ちた。
 個人的な好みと仕事とは、切り離して考えてもらいたいものである。
「アンタの判断だけかよ、あいつに声かけなかったのは」
「ああ、そうだ。なんか悪いかよ? ガタガタと理屈をごねるなんざ、男のやるこっちゃねぇんだ。野郎の演説にはもうウンザリだぜ」
「そう嫌ってやるなよ。私たちは同じ穴のムジナ。連携がとれないと困るだろ」
「おれは別に困りゃしねぇさ。困るとすれば現場のお前らだろうが。いいから、早いとこ食っちまえ。仕事の内容に移るぞ」
「あいよ。たっく、焦らせないでほしいやねぇ〜〜っと」
 皿を持ち上げてパスタをかき込み、酒器を傾けて一気に飲み下す。
 慌ただしい食事というのは好きではないのだが、遅れはこちらに原因がある。文句をならべるのはまたの機会にあずけよう。
「今日の午後に、倉庫でちょいとした騒ぎがあった。ストライフ自衛団とだ」
「ストライフ自衛団。例のあいつら、か。誰がお相手したんだい」
「ブリッツが相手してやってたんだがな、奴さんの秘蔵っ子がえらく強力でよ。メアリーとクラスターも駆り出されることになったんだ」
「うっへぇぇ、そりゃあ敵さんも哀れだね。あのコンビは容赦がないからな」
 まったくだ、とウェッソンは首肯を返した。
 それから、椅子を立ち上がって照明をおとしていく。
「機動戦車とかいう物珍しいもんが標的だったんで、あいつらはそれをスミスの土産にと思いついたんだが、物が物だからな。全部は持ち帰れなかったんだ」
「ふーん。こりゃ、話が見えてきたな」
 機動戦車の残骸。その余りを、これから取りに行けというわけだ。
 言葉から連想するに、残骸とはいえども、なかなかの力仕事になりそうだが、腹ごなしにはちょうどいい。
「蒼ちゃんを呼べればなぁ。手分けできて、楽なんだけど」
「なんだ。音信不通かよ」
「いいや、そういうんじゃないよ。水曜日は特に鍛錬に励むんだ、私の相棒は。連絡しても、気づかないだろうと思って」
「はっ……これ以上、あの板チョコみたいな腹筋のどこ割るつもりだよ、蒼は」
 確かにストイックにもほどがある。何がそうまで蒼流星を動かしているのか。
 彼はこと娯楽というものに、さしたる関心がないようである。
 裏社会での実力は知れわたり、異名者たちの認識においても、最も完成された使い手であるというのに……。
「一応、呼び出すだけやってみろよ。だめで元々だろ」
「そうだね。何もしないでブーたれるのはカッコ悪いしさ」
 デリンジャーは無線機を取り出し、操作しつつ、外に続く扉に手をかける。
 少し力をくわえて開け放てば、夜の冷気に息が白く舞った。
 新年を迎え、季節は春。だけれど、肺に吸い込んだ空気はいまだに冷たくて、身体を温めてくれた美酒もほとんど無意味となりそうだ。
「……体調とかさ…………」
「あ?」
「体調とか、くずさないといいよな」
「独り言かよ。お前もオッサンになってきたみてぇだな」
 そのとおり。時は流れた。
 だが、声に出した願いは、自らのために放ったものではない。
 そこに込められた真意は、デリンジャーだけが理解していた。
 選んでしまった道には、反省も後悔もある。
 しかし、だからこそ自己を戒めながら、完走しなくてはならないのだ。
 発信した無線に、やはり蒼は応答する気配がない。
 それもいいかと、デリンジャーは刺突剣ラ・イールを撫でて両足を動かした。
 気のせいなのだろうが、左の義眼が痛かった。
 犯した罪を忘れるなと。所業を背負え〈狂公〉と。
 ――わかっているさ。傷つけた人たちの顔はすべて覚えている。
 毎晩だって、そうした者たちのすすり泣きを聞いてるんだ。夢のなかでね。


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