小説&まんが投稿
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:ロスト・ネーム 作者:鈴木翔太

第1回 1




 はじめにことわっておくけれど、これはまったく面白味のない物語だ。
 ただ私自身の半生を記し、思い出せる限りを連ねた、粗雑な手記とでも思っていただきたい。こう注意書きでもしなくては、物書きを志している人間にはさぞ不愉快な、意味合いも主張もない、薄っぺらな文字の群れなどと言われてしまうだろうから。
 ああ。自己紹介が遅れたが、私の名は、エヴィル・デリンジャー。
 他人様には胸を張って名乗りにくい職業に就くことになる、いい加減な男だ。
 ……さて、前置きはここまでとして、私をみなさんに知ってもらうにあたり、まず欠かせないことと言えば――そう、まずは中学時代の話からにしよう。






   Memory1-1

『クレメンツ。お前はいつになれば、私の後を継ぐための勉学に励むつもりだ』
 父は口癖であるかのように、当時の幼かった私を、このように戒めたものだ。
 年齢の割に衰えのない眼光と、針金のようにピンとした背中。見た目だけなら三十代でとおりそうな父は、いつもどこか、私と話すときには不機嫌だった。
「父さん、僕はこれから友達と約束があるんだよ。待ち合わせに遅刻しちゃう」
「またもや、くだらん遊びに出かけるのか、クレメンツ。道楽ばかりに勤しんでどうなるというのだ」
 私がクレメンツと呼ばれていることに、疑問を抱いている方も多いだろう。
 まぁ、この事柄については、もう少しあとでゆっくりと説明させてほしい。
 ともかく、この頃の私の名前はクレメンツであり、それ以外にはないのだ。
「父さんだって、子供のときには遊んでたでしょ? 勉強なら、帰ってきてからでもやれるじゃないか」
「口答えをするなっ。このあいだも似たようなことを口にしていたではないか。そうやって面倒事から逃げていてはなんにもならんのだ!」
「……もういいよ、父さんなんか大っ嫌いだ――!」
「待たんかクレメンツ、まだ話は終わっておらん!」
 父の怒鳴り声を背中に受け、クレメンツ少年は家を飛び出した。
 我ながら短気なガキだと思うけれど、父の態度もなんとも高圧的である。
 あの人は昔から子供の躾に厳しかった。私が長男だったせいかもしれないが、彼から褒められた思い出など、頭のなかをいくら探そうとも出てこない。
 もちろん、父がそのように息子を育てるのには理由があるわけだが、私自身はそれを理解できるほど聡明な子供ではなかったのだ。


次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 703